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HOME  > 卒業生インタビュー  > No.27  草川 弓 [成城大学バリアフリー支援室コーディネーター]

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No.27  草川 弓 [成城大学バリアフリー支援室コーディネーター]

草川 弓(くさかわ・ゆみ)
成城大学バリアフリー支援室コーディネーター、社会福祉士
TEACCHプログラム研究会東京支部 元副代表
BRIDGE心の発達研究所 ソーシャルワーク・ディレクター
(1984年度 武蔵野美術短期大学工芸デザイン学科テキスタイルデザイン専攻卒業)

三重県四日市市生まれ。
大手テキスタイル会社に内定していたが、親の強い希望により東京での就職を諦め親元(名古屋)に戻る。洋裁学校で一年間学んだあと、ジュエリーデザイン、オートクチュールデザイン助手、営業事務に携わる。結婚を機に再び上京し、趣味のベランダ園芸が高じてエクステリアデザイナーを目指そうと考えるが夫の滋賀県への転勤のため断念。滋賀大学の生協で働いた後、小学校で障害児の支援員となり、障害児やその家族を支援したいと思い始める。この時期に自閉症の療育方法*TEACCHを学ぶ。
その後再び上京し、東京でTEACCH研究会を創設。周囲の勧めもあり、日本福祉大学通信教育課程で社会福祉士の資格を取る。障害のある就学児向けの放課後等デイサービスの指導員を経て、3年前より成城大学バリアフリー支援室にて勤務。また、BRIDGEこころの発達研究所では自閉症の支援者にコンサルテーションを行なっている。
趣味は猫と遊ぶこと、ベランダ園芸、散歩。

*TEACCH(Treatment and?Education of?Autistic and related?Communication-handicapped?CHildren:自閉症とコミュニケーション障害の子どもの治療と教育)とは1972年以来アメリカ・ノースカロライナ州立大学を基盤に実践されている、自閉症の方々やその家族、支援者を対象にした生涯支援プログラム。今は世界中に広まっており、自閉症の療育方法の中心となっている。また、「TEACCH」という言葉の意味も変化してきており(Teaching、Expanding、Appreciating、Collaborating and Cooperating、Holistic)、子どもだけでなく、自閉症の人の生涯にわたる支援を展開している。

【スライド写真について】
1 本人ポートレイト
2 成城大学構内
3.TEACCH 東京支部スタッフの皆さん
4.TEACCH 自立課題例

プロフィールを見る

自閉症の人を愛し、共感し、尊重し、支えていきたい

− 学生時代のエピソードは

大学が大好きで、1日も休まずに片道2時間半かけて通学し、毎日閉門時間まで残っていました。小さい頃から「人と同じようにしなければならない」というのがともかくイヤという変わり者で、高校までは大の学校嫌い。でも大学は他の人と違うことをして褒められた初めての場所で、それがよかったのです。
2年目は大学の近くに下宿し、大家に内緒で「ぽちこ」と名付けた犬を飼っていました。いつも校内に放し飼いにしていたので、ぽちこは学校中の人気者でしたよ。
在学中2年間どっぷり夢中になったのは芸術祭実行委員。もしかしたら課題制作よりも熱が入っていたかもしれません。

− 今の仕事するようになったのは

大きなきっかけは近所に住む重度の自閉症の女の子との出会いです。その子の母親はしゃべることもできない7歳の娘の世話で全く自由のない生活を送っていて、そのあまりの大変さに衝撃を受けました。彼女に「手助けしたい」と申し出たところ、自閉症の方やその家族を対象にしたTEACCHプログラムのことを教わり、勉強を始めたのです。その後、東京でTEACCH研究会を自ら発足し、自閉症を支援できる専門職の育成を目指しました。10年後、自分自身も社会福祉士の資格を取得。重度の障害者の支援も経験し、3年前に現職に就きました。なぜなら高等教育機関は障害者支援が最も不足している分野だからです。


TEACCHプログラム研究会東京支部勉強会 2017年10月15日

− TEACCHに共感した理由は

TEACCHプログラムの主幹である「構造化」は、ムサビで学んだデザインの理論と共通点があるのに気づきました。ここでの「構造化」とは、自閉症の人が持っている力を最大限発揮させるため、それぞれの特性に合わせて支援を組み立てる手法です。場所の意味や機能を伝える物理的構造化、はなし言葉だけではなく、目で見て分かるようにイラストや写真・文字で書いて表すなどの工夫をする視覚的構造化、課題を理解しやすいよう整理する組織化、といったことが挙げられます。構造化することによって、1人でできる経験を増やすことを目指します。実は世の中には「構造化」と同様の考え方でデザインされているものがたくさん存在しています。例えばユニバーサルに共通するサインシステム、信号機や道路標識のマークやルール、電車ごとに色別された路線図や券売機などがそうです。そして自閉症の人のためには、個々の症状に合わせて、それらを少しデザインし直せばいいのではとひらめきました。自分の中でそこにピッタリくるものを感じ、TEACCHプログラムの普及を応援し続けています。


TEACCH自立課題例


1つの活動につき、1つの場所を設けるという物理的構造化の考えに基づいて作られた空間。左が1対1の作業コーナー、右がプレイエリア。写真提供:NPOふるーる

− 成城大学バリアフリー支援室での仕事内容は

障害などの理由で大学生活に支障がある学生に対し修学上の支援を行っていて、社会福祉士(私)と臨床心理士の2人で構成されています。現在、対象者は13名。入学後に障害がわかるケースの大半が発達障害で、見た目は普通のため発見が遅れることも多く、潜在的にはもっといるのではと思います。周囲から誤解を受けやすいという問題もありますね。
支援を望む学生はバリアフリー支援室コーディネーターに相談し、支援申請を行います。教職員で構成されるバリアフリー委員会での承認を受け、支援室は個別に最適なプログラムを作成しバリアフリー実施委員会での審議を経たうえで、担当教員や担当部署へ配慮の依頼を仲介します。
また、障害のある学生の教室移動やノート取りなど様々なサポートをする「学生サポーター(有償)」の募集や育成も行っています。
教職員や学生への啓発は重要な仕事です。実際に支援を行う立場の教員の中で、どうしたらいいのかわからなくて悩んでいらっしゃる先生がいる一方、関心の薄い人もいます。理解を深めるために、教職員向けのバリアフリー講演会、学生向けの講習会を年に数回開催していますが、参加者が今ひとつ伸びないのが悩みです。


成城大学バリアフリー委員会リーフレット・学生サポーターのしおり

− 仕事で大切にしていることは

どの人もみんな大切にされる存在で、尊厳を持っていると思うので、相手へのリスペクトを心がけること。また、相手の間違いを許す、つまり、間違ってもいいよという姿勢です。人間に序列はないと思っています。

− 今後の展望は

すべての学生に福祉教育を広めていきたい。ダイバーシティ教育は社会に出てからも必要な知識なので、初年時の必修科目として取り入れて欲しいですね。また、現在、TEACCHを勉強できるのは研究会か川崎医療福祉大学だけなので、もっと増えることを願います。

− ムサビで学ぶ学生へのメッセージ

「求めよ、さらば与えられん」これは好きな聖書の言葉です。「求める」というのは何かを学ぼうとすること、疑問を持って突き詰めていくこと。学んだら手に入る「(神様から)与えられる」、すなわち、結果が得られる。短絡的に良し悪しを結論づけるべきではないし、悪い結果だと思ってもあとから真の意味がわかることもある。つまり、「すべての事柄は活かすことができる」という教えだと解釈しています。求め続けなければ絶対に結果は出せないので、何事もどうぞ諦めないでください。

−  編集後記

「満員のエレベーターに車椅子の学生が乗ろうとしても、誰も降りて譲ろうとしない。」周囲の目や仲間の反応を気にしてか、降りる一歩を踏み出す勇気がない。これほど日本文化のネガティブ面を象徴している光景はないだろう。
「長いものに巻かれろ」的な考え方では障害者支援はできない。草川さんの取り組みは障害者とその家族ひとりひとりに真摯に向きあい、寄り添い、ともに学び合うもの。デザインが自閉症の子どもと社会を繋げる大切なファクターならば、自分にも小さなお手伝いができるのかもしれない。

取材:大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
ライタープロフィール
名古屋市生まれ。1986年に早稲田大学政治経済学部卒業。NTTに8年間勤務し、広告宣伝や展示会、フィランソロピーを担当する。その後、米国ワシントンDC、パラグアイ、東京に移り住み、2006年に武蔵野美術大学造形学部通信教育課程デザイン情報学科コミュニュケーションデザインコースを卒業。2008年よりスミソニアン自然歴史博物館のグラッフィックデザイナーになり、現在も東京よりテレワーク中。NPO団体のデザインも手がける。
http://www.kunikodesign.com/

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