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msb! トークリレー04【学生時代の思い出と商業環境デザインの仕事】

学生時代の思い出と商業環境デザインの仕事

1974年度 造形学部 産業デザイン学科 芸能デザイン専攻(現空間演出デザイン学科)卒業
金沢明彦(ジーク株式会社 デザイン室顧問)
(関西インテリアプランナー協会理事)
(日本商環境デザイン協会評議員)

【スライド写真について】
1.神戸大丸 震災復興計画 デザインディレクターとして参画 1997年
2.本人ポートレイト 2022年
3.ビエンナーレ武蔵美HYOGOの展覧会 集合写真 2022年
4.金沢明彦絵画個展 『宙空の彼方』展 2022年

オリンピック・万博でデザインに触れた中学高校時代
私は1951年に生まれましたが、その年には、サンフランシスコ講和条約と日米安全保障条約が調印されました。日本は、貧しい敗戦国から立ち上がり、アメリカ型大量消費社会を追い求めて経済発展を目指していきます。高度成長時代に入り、1964年東京オリンピック、1970年大阪万博が開かれ、それに伴い高速道路(1963年)や新幹線(1964年)が整備され、街は開発で活況を呈していきました。中学、高校時代にオリンピック競技場の施設や万博パビリオンを見学する機会を得ましたが、建築や展示のディスプレイや映像に目を奪われ、空間のデザインに触れた最初の大きな出来事でした。

私が大学に入学したのは、その大阪万博が開かれた翌年の1971年でした。1960年代というのは、工業社会の発展のために様々なものの犠牲の上にダイナミックな社会経済と街の変容があったと思います。そして1970年代は工業化社会がもたらした負の遺産と向き合い、人間らしさを求める一方、企業には企業戦略が求められるようになり、それを社会に発信するため情報化社会がスタートしました。そんな価値観の変革期の中で、グラフィック、インテリア、ファッション、プロダクトのデザイン、建築デザインなどのおびただしい知識情報を浴びることになりました。武蔵野美術大学の教育目標に『幅広い教養を備え、人格的にも優れた美術・デザインを中心とする造形各分野の専門家を養成する。美術とデザインの領域における総合的な造形教育を通じて、広く知識を授けるとともに、深く専門の技能、理論や応用を教授研究し、豊かな美的教養をそなえた社会人を育成する。』とありますが、豊かな美的教養をそなえた社会人としての出発の準備ができたような気がします。

70年代のモダンデザインとPOPアートの混沌とした中でのキャンパスライフ
大学に入ると専門講義というのがありましたが、印象に残ったのはモダンデザインの概念とその近代現代デザイン史、建築史などデザインの基礎を学んでいく授業でした。アーツアンドクラフツ運動、ドイツ工作連盟、アールヌーボー、アール・デコ、バウハウスなどなどです。勝見勝著『現代デッサン理論のエッセンス』や海野弘著『アールヌーボーの世界』ジウリア・ヴェロネージ著の『アール・デコ』の訳本が出版されたばかりですぐに購入して熱読したことを憶えています。また現代建築論の長谷川尭先生のコルビュジエの作品画像を交えた作品紹介に大きな感動と衝撃を覚えました。一方、ファインアートやグラフィックの世界では、アメリカ型の大衆文化や消費社会の影響を受け、デザインの世界にモダンアートやPOPアートが流入してきました。私が大きく影響を受けたアーティストには、アンディ・ウォーホル、デヴィッド・ホックニー、横尾忠則などがいました。70年代は欧州の正統派のモダンデザインからPOPアートが入り混じった混沌としたデザインの世界でした。インテリアデザインの世界では、ジャパニーズモダンの礎を築いた剣持勇、プロダクトデザインから店舗デザインの倉俣史郎が、気鋭のデザイナー達で憧れの存在でもありました。

一方、実技実習では我々の時代は、デザインの基礎の演習に多くの時間が割かれていました。デッサン実習が半年もあり、プレハブ校舎でデッサンに取り組みました。またレタリングや写真やグラフィックの授業もあり、また住宅設計の製図実習やパースの実習もあり、本格的ディスプレイや舞台美術の実習に辿りついたのは3年次からでした。全てに興味があり、あまりにも幅が広く、自分の進む道の方向性を見いだすことは難しいことでした。そんな幅広い知識や技能が役立つのを実感するのは、社会人になってからでした。就職は紆余曲折をして、ディスプレイ&インテリアの店舗や展示会を主とした企画・デザイン・設計・施工の会社に就職することになりました。

商業環境デザイナーとして求められること
商業環境デザインの仕事を50年続けてきました。商業環境デザインの仕事は、店舗空間からホテルやオフィスの空間、また、展示会イベントやミュージアムまで広がっています。商業環境デザインの仕事は、感性と技術を融合して新しい価値観を創造していくことが求められています。デザインは機能的に優れていても、情緒的に優れていなければ顧客の支持は得られません。又、それをしっかりと造り上げる施工技術が要ります。商業環境デザインに携わる者は単なる設計者ではなく、顧客のそばに立ち、商業のあり方、施設のあり方、ブランドのあり方などを、トータルに考えるとともに、商業環境を建築、設備、内装、家具什器、照明、サインなどを一貫したコンセプトに基づいて、デザインをまとめていく事が求められます。扱う分野はとても幅広くて奥行きも深いものです。それ故にチームプレイを必要とします。

商業環境デザイナーはその分野において高度な知識と情報を必要とされ、それゆえに全面的な信頼を得ると同時に委託者に対しては受託者としての義務を負います。その責任と義務は、その職業としてのなすべきことを熟知して、常に依頼者の利益を優先しながら仕事のプロセスを明快に説明し、最終的な決断のための判断材料を提供するものでなければなりません。これは受託者責任(フィデュ―シャリー・デューティー)といわれるもので、この受託者責任に基づく信頼関係が社会の基底に存在することで、契約書に書ききれない部分も含めて社会を円滑に動かす事ができると言えます。

技能、技術、知識見識に加え、そこに根ざした幅広い教養と健全な世界観が要求されます。これに応えるには、デザイナーが、自身の社会的存在意義を深く意識する事と自己研鑽へ努力をすることにかかっています。その始めの一歩を武蔵野美術大学で学べたことは、私の人生において、大変幸運なことでした。

現在、開催期間中の情報

  • 2023年度 武蔵野美術大学 卒業・修了制作 優秀作品展

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  • 遠藤彰子展 生生流転

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  • 山本美次展

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  • BEGINNING of WORSHIP ‒ First Beheld the Blue ‒

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  • 第101回 春陽展

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