アイディアから生まれる椅子のデザインと人間工学から生まれる椅子のデザインを融合させ、常に身近にあることを考えられている井上昇さん。現役の椅子デザイナー、ビジネスマンとして50年近く活躍されている。
11年間企業に勤め、35歳のとき、脱サラしてアメリカ家族留学を決意。チャールズ&レイ・イームズが在籍したデトロイト郊外の少人数制のクラブルック美術大学院大学デザイン科に入学、必死に学んだその時の経験や人との出会いが自分にとって大きいと語る。現役で活躍するデザイナーが教鞭をとり、教育する環境が自分を変えるきっかけになったという。
流動的な世の中に身を置き続けている井上さんだからこそ、本来のデザインとは何かを問い続け、後世にノウハウを伝える「椅子塾」という教育的活動もおこなっている。そこはクリエーターの「独立と自由」を目的とした学校である。
「椅子というのはプロダクトデザインの中で一番難しい。単純だが面白く、他のことはやりたくなくなる。とても楽しい一生の仕事だ。自分のデザインした椅子が人の役に立てることが喜びだ」と井上さんは言う。
座り心地がよく彫刻的に美しい椅子は、空間自体に緊張感をつくり、より上質な空間になる手助けをする。そんな椅子を作り続けたいという。
現在は高齢者向けの椅子、健康のための椅子つくりをおこなっている。健康に不安を抱えている人向けの椅子を自分で製造、販売もしている。タイムレスはロングライフ。井上さんの挑戦はずっと続く。
取材:広報部 太田
椅子作品「Awaza」と著書「椅子 The Book of Chair」