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No.77 私市 敬[漫画家]

私市 敬(きさいち・さとし)
漫画家
(2008年(2007年度)武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科卒業)

東京都武蔵村山市出身。東京都立昭和高校卒業。武蔵野美術大学卒業後は漫画家を目指し、学生時代からアルバイトしていた学童保育で働きながら出版社に漫画の持ち込みを行う。2011年から武蔵野美術大学通信教育課程で3年間学び、教職を取得。
2013年『デヴィルス×ドクター』で小学館新人コミック大賞を受賞。2014年別冊コロコロコミックでデビュー(『パンダんだ』)。2020年より月刊コロコロコミックで『ブラックチャンネル』連載中。ペンネームはきさいちさとし。趣味は動物園・水族館巡り。

https://www.corocoro.jp/title/188
https://x.com/KISAICHI_satoC

【スライド写真について】
1.本人ポートレート
2.ブラックチャンネルコミックス
3.小学校3年生のとき初めて描いた漫画ノート
4.『ブラックチャンネル100万人登録鬼ヤバFANBOOK』
 『コロコロよみもノベル ブラックチャンネル: おうちルールを勝手に改造してみた!』
  グッズ(キャラアクリルフィギア、ペンケース、小物ケース)
5.経済産業省の製品安全啓発キャンペーンのバナー(2022.11):全国の家電量販店などで製品安全に関するゲームを通じて、安全な製品の選び方や製品事故防止を呼びかけるイベントにてブラックが起用された。

プロフィールを見る

悪魔系YouTuber「ブラック」で漫画家への夢を実現

─ 子どもの頃から漫画家になりたいと思っていたそうですね。どうしてムサビを選んだのですか?

漫画を描き始めたのは小学校3年生です。当時、ノートに漫画を描くのが流行っていて、図書館を真似て、貸し出しカードや会員証を作り、漫画ノートを互いに貸し借りして遊んでいました。高校では漫画部へ入部。愛読書は少年ジャンプでした。


小学生時代の漫画ノート

「漫画家になる」という子どもの頃からの夢と「大学進学」という家族の希望があったので、「美大」と「漫画研究会(漫研)」に入ることが大学進学の二大目標に。だからはじめはどの美大でもいいやくらいの気持ちでした。でも高校3年生のときムサビのオープンキャンパスを訪れ、中央広場の雰囲気がすごく気に入り、ここで4年間過ごしたいという思いが強まりました。

─ 大学時代の思い出について教えてください。

目標だった「漫研」と高校から続けていた山岳部「ワンダーフォーゲル部」に入り、もっぱら二つのサークル活動がメインの学生生活でした。よく山に登り、南アルプスの100名山を一筆書き(※1)したり、卒業山行ではムサビの清里寮から鷹の台キャンパスまで歩いたりなど、4年間で50山行を達成。漫画は4年生の頃から出版社に持ち込みをしていました。


武蔵美ワンダーフォーゲル部の合宿。前列中央(グリーンのジャケット)が私市さん。

※1:日本百名山とは、小説家で登山家でもある深田久弥氏が、著書『日本百名山』で紹介した100の山々を指し、南アルプス(赤石山脈)に位置する主要な山々も挙げられている。一筆書きとは複数の山々を、原則として交通機関を使わずに、歩行とカヤックなどの「人力」のみで連続してつなぎ、踏破することを意味する。


『SFファイターズ』:漫研時代に自分が描いた漫画を総集した自作の同人誌。 『自己漫族』:漫研が年1回作成する部誌で、表紙を担当(2008年度)

─ 就職活動しなかったそうですが、卒業後はどうされていましたか

漫研では毎年1人くらいはプロの漫画家になっていたので、そういう先輩にならって就活はしませんでした。大学3年生からアルバイトしていた学童保育で卒業後は毎日働き、それと漫画の持ち込みを続けるという生活をしていました。この学童でのアルバイトがきっかけで教育的な進路にも興味が湧いてきて、卒業後3年目のときに武蔵美の通信課程に通い始めることに。3年間かけて教員免許を取り、就職しない息子の行末を心配していた親を少し安心させました(笑)。

実はこの勉強が漫画家への道のりの大きな助けになったのです。小学校では授業の準備として、テーマ、一番伝えたいこと、授業を通じて子ども達が学ぶべきこと、導入としての掴みは何にするかなどの授業案の作成が必要とされています。それはまさに、読切の漫画を作る過程と全く同じなので、今でも漫画を企画するとき、授業案と重ね合わせてみることもあります。学校の先生はきっと漫画が描けるんじゃないかと思ってますよ。

─ 連載漫画を持つまでの道のりを教えてください。

学生時代からずっと少年ジャンプ(集英社)一択で漫画の持ち込みをしていましたが、なかなかかなわず。27歳のある日、編集者から「今日で終わりにしよう」との最終通告! やむなくジャンプをあきらめ、コロコロコミック(小学館)の門を初めてたたいたのです。


月刊コロコロコミック:小学生(主に3〜5年生)男子のバイブルと言われている人気の漫画雑誌

コロコロコミックの漫画家になるには、まず新人賞を受賞し、次に編集部内の掲載会議(コンペ)で認められれば、いよいよ雑誌別冊コロコロに掲載されデビュー達成。でも、人気が出なければ即終了で、編集部内コンペに逆戻りという過程の繰り返しで、なかなか連載には届かないのが新人の苦しいところ。僕自身は27歳でようやくデビューを果たし、なんとか人気を獲得し、33歳でやっと連載に辿り着けたのです。

普通の人ならこんなにリスクの高い道は選ばないでしょうね。自分がギャンブルみたいな進路を選んで漫画家を目指し続けることができたのは、ひとえに「鈍感」だったからではないでしょうか。失敗する怖い未来を鮮明に想像する力に乏しかった「鈍感力」の賜物だったのかも(笑)。

─ 現在執筆中のブラックチャンネルについて教えてください。

漫画『ブラックチャンネル』は2020年1月にコロコロ増刊号ミラコロコミックに読切として掲載され、読者投票でストーリー部門1位を獲得。月刊コロコロコミックの2020年5月号と9月号の掲載を経て、11月号から毎月32ページで現在も連載中です。


ブラックチャンネルのコミックス

主人公のブラックは悪魔系動画クリエーターで、助手のカメラちゃんと普通の小学生のさとしと一緒に「鬼ヤバ」な動画を制作し、人間をはじめ、あらゆるものの裏側を動画にして暴き出すという物語。ユーチューバーが子どものなりたい職業の第一位だったので、時代に合わせたモチーフとして採用しました。テーマもネットいじめなどのインターネット上の諸問題やネットリテラシーの大事さなど、現代ならではの社会問題を取りあげています。出てくる人間は小学生中心ですが、ブラックが話す言葉は誰に対しても「ですます調」の敬語。動画制作の前には必ず怪しげな「契約」を結ぶという決まり事があり、それで後々ひどい目に遭うなど、大人びたブラックユーモア的要素もあります。

雑誌掲載以外では他社(株式会社 Plott)との共同制作のYouTubeアニメも同時期にスタートし、現在のチャンネル登録数は118万人。さらに経済産業省のポスターキャラクターとして使われたり、子供靴メーカーとのコラボや各種グッズの作製販売、東京駅のキャラクターストリートに出店したりなど、広がりを見せています。


東京キャラクターストリートのポスターと出展模様(2021.10)

─ この先ブラックチャンネルでやりたいこと、また、それ以外の描いてみたい漫画などはありますか?

ブラックチャンネルのテーマとしては、これからもネットの誹謗中傷や、転売ヤー問題などの社会問題を取り上げていきたい。メディア展開という面ではもっともっといろいろな企業とのコラボも行っていきたいです。ブラックなら、グッズ展開などでより広い経済効果をもたらす可能性があるのでは。また、教育的なものにも関心があるので、教育現場と掛け合わせたプロジェクトなどがあればぜひチャレンジしたいですね。


限定販売されたブラックの人形。ブラックは大人の女性にも人気がある。

ブラック以外の新しい児童漫画でいうと、王道のバトル漫画を描きたい。カッコイイコマ割りで必殺技を叫ぶシーンなどを描いているときはすごく楽しく熱中していて、出来上がっていく過程がとても充実している感じがします。根が少年なんでしょうかね(笑)。また、サザエさんのような家族の漫画や、4コマ漫画もチャンスがあれば是非やってみたい。

─ 仕事上で大切にしていることはなんでしょうか

「自分が納得するかどうか」でしょうか。漫画は人気競争の世界ですし、そのためには読者におもしろいと共感する、刺さるネタを提供しなければならならない。でも常に「僕自身がそれをやりたいと思っているかどうか」を頭の中で考えるのです。そして、子どもに受けそうなネタや流行りネタを意識しつつも「僕はこっちの方がおもしろいと思うんだ。どうでしょうか?」というように「自分のやりたいこと」を表現していくことを大事にしています。

─ これまでに努力したこと、創造力を高めるために日常的に心がけていることはありますか?

連載に至るまでには、「先人にならう」ために成功者のドキュメンタリーやインタビューを見たり、ヒットできるキャラクターを探るために、既存のキャラクターの特徴について研究したりしていました。また、小さな仕事を地道に積み重ねて編集者との絆を深め、仕事のチャンスを探っていましたね。

なかなか掲載が取れなくて、原稿を描けないもどかしさからソーシャルゲームにハマってしまった時期がありました。さらにSNSにゲームのファンアートを投稿すると「いいね」の反応が返ってきた! 「こんなことをしている場合ではない」と自戒しながらも、つい嬉しくて描く楽しみが増すばかり。そこでこれを訓練の場と捉えることにして、とにかく毎日投稿することを自分に課しました。結果的にイラストの特訓になり、本業に生きていますし、今も日々かかさずに投稿中です。

創造力を高めるには作品をいっぱい見て、引き出しを増やすこと。自分の中にブロックのパーツがたくさんあればあるほど、作れるものの種類が増えるのではと思うのです。また、かつての編集さんから「毎日新聞の記事から、一つをピックアップして」と言われたのをいまだに続けていて、実はこれが漫画のネタにつながる感覚があります。こうした自分ができるちょっとしたことを毎日コツコツ実践しています。


ブラックのキャラアクリルフィギュア

─ 漫画以外でやってみたいことはありますか?

高校時代からの友人が始めたクリエーターを支援する活動に参加しています。具体的にはデザイナーやアーティストの発表の場を作り、人と人を繋げるサポートをする仕事で、箱(ギャラリー)の常設を目的とするクラウドファンディングに協力しています。漫画以外のネットワークも作りたいですし、後輩の作家さんたちの手助けができたらと思います。

もう一つは動物園にはまっているのでその関係の仕事。動物が好きというよりも、「動物園・水族館」のという施設の構造、客の動線、経営などに関心があって、月一回の頻度でいろいろなところに足を運んでいます。各園の特徴や魅力などがわかってきて、その比較が楽しくなってくるのです。

─ 学生へのアドバイスをお願いします。

「成功者は運が良かった」というけれど、運は自分次第で高められます。自分の目指すものに向かって常に動いていれば、動かない人より見つけてもらえる確率は上がる。「ともかくやる、それだけ!」本当に欲しいものがあるのなら、藁でもすがる意気込みでガツガツと貪欲になって手に入れようと励むのが大事。

漫画家に関しては、現在は数年前に比べるとデビューしやすくなったと思います。それは発表の場や募集の窓口が広がったから。しかしその反面、漫画家として継続していられるか否かはかつてより難しくなったと感じていて、僕も日々、現在進行形で挑戦中です。どんな職業でも、どんなステージでも、何かしらの課題に直面するもの。そのつど立ち向かい続ける力が必要なのでしょう。

編集後記:

売れる漫画を生み出すには上手な絵や魅力あるストーリーだけでは不十分。人気を呼ぶキャラクターの開発や読者層の嗜好調査、トレンドにあったテーマの構築など…….新商品開発のためのマーケティングリサーチと同じなのだと驚いた。そんな努力を地道に続け「好きこそものの上手なれ」を体現しているきさいちさんに感服。

取材:大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
ライタープロフィール
名古屋出身。フリーランスグラフィックデザイナー/ライター。2006年に武蔵美通信コミュニケーショデザインコースを卒業後、渡米し、スミソニアン自然歴史博物館でグラフィックデザインを手がけた。2025年より東京と長野(八ヶ岳)の二拠点生活を実践中。

撮影:いしかわ みちこ(10院デ写)

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