「待つ出会い」と「世代を超えたコミュニケーション」から生まれたギャラリー上り屋敷
− イラストレーターとしての仕事は
卒業後も続けていた陶芸が「下手だった」ので断念し、イラストレーターになりました。女性雑誌でのイラスト・コラムなどを手がけ、保険会社の月めくりカレンダーの絵と文章は32年間続いています。毎月のテーマはこれまでに同じものは一度もありません。
また、夫のデザイン会社が制作する公共事業関連のパネルや印刷物等にもイラストを描いています。
[msb! caravan]
若原 典子 わかはらのりこ
ギャラリー上り屋敷オーナー、イラストレーター
(1966年度 武蔵野美術短期大学 デザイン科 工芸デザイン専攻卒)
卒業後6年目に陶芸からイラストレーターに転向。
武蔵美テニス部で出会ったご主人、若原勝政氏とともにギャラリー上り屋敷と
デザイン会社(株)アトリエ・モッキンを営む。
イラストレーター、ギャラリー経営、新人アーティストの発掘・支援、
古美術商と、仕事内容は多岐にわたる。
趣味は歌舞伎鑑賞、オルガン、旅行、テニス、歩くスキーなど。
大好きなフェルメールやピエロ・デラ・フランチェスカの作品を世界中におっかけたり、
アート仲間と手作り絵本を創作したりと、好奇心と遊び心旺盛。
ギャラリー上り屋敷ウェブサイト http://www.wakahara.com/agariyashiki/
【スライド写真について】
1 ご本人ポートレイト
2 ギャラリー上り屋敷 内観
3 ムサビ出身のご主人と
プロフィールを見る
− イラストレーターとしての仕事は
卒業後も続けていた陶芸が「下手だった」ので断念し、イラストレーターになりました。女性雑誌でのイラスト・コラムなどを手がけ、保険会社の月めくりカレンダーの絵と文章は32年間続いています。毎月のテーマはこれまでに同じものは一度もありません。
また、夫のデザイン会社が制作する公共事業関連のパネルや印刷物等にもイラストを描いています。
32年間イラストを続けているカレンダー。キャラクターのママさんは人気がある。中央は若原さんの仕事風景
− ギャラリーができた経緯
自宅を新築した際に、思いがけず、隣家も買うことになりました。「リタイアしたときに友人が集えるような場を作りたい」と、そこを漆喰壁の和風空間にリフォームしたのが6年前。とある女性から「ぜひともここでギャラリーを開きたい」と熱烈に請われ、期限付きで貸したのが始まりでした。彼女も私もギャラリー経営は初めてで、作家の発掘から交渉まで試行錯誤の連続でした。今では「使いたい」と訪れる人や定期的に個展を開く作家もいて、年間13ほどの催しを行っていますし、展覧会以外にも、囲碁大会、三味線やSPレコードコンサート、茶会、ワークショップなどにも使われました。
囲碁大会
−ギャラリー上り屋敷の特徴
正直、初めは若い作家にあまり興味はなかったのですが、他のギャラリー(例えば販売のみに重きを置くギャラリーなど)とは違う「らしさ」を持ちたいと考えていました。
いろいろなアーティストと出会うにつれて、チャンスや経験に乏しい若い作家達を応援したくなり、彼らが外国─芸術の都パリで作品発表する機会を作ったらどうだろうと思いつきます。そこで、三年前から、年に一人厳選して、将来性を秘めた若い作家をパリに連れて行き、現地のギャラリーで展覧会をし、帰国後にギャラリー上り屋敷でも開催するということを始めました。パリでのアパート生活、作品展示、観光・美術館巡り等は貴重な体験ですし、辛口のパリ人の評価を煽るのは刺激的な勉強になります。また、パリ展示が先立つことで、日本での関心度も高まります。個性的な若者達をお世話するのは苦労もありますが、何よりコミュニケーションが楽しいのです。こうした若手アーティストの「パリto東京」という試みが当ギャラリーの特徴となりました。これまでに、木彫、シンブンシキョウリュウ、絵画の三名の作家が渡仏を経験し、この先二年後までの候補者が選ばれています。
杉崎良子氏(2006年武蔵野美術大学造形学部デザイン情報学科卒)作のシンブンシキョウリュウは2016年にパリで展示された。
−仕事で大切にしていること
若い人とのコミュニケーションです。コミュニケーションこそが美術、デザインの力と思いますし、それを通じて一緒に何か楽しいことをやれればいいですね。また、ジェネレーションtoジェネレーションというように、次の世代につなげて行ければと思います。
− 今後の展望
自然に来るのを待つ─ひたすら「待つ出会い」です。
− 武蔵美で学ぶ学生や卒業生へのメッセージ
大切なのは「続けること」です。
− 編集後記
目白と池袋の中間の住宅街に、隠れ家のように佇むギャラリー上り屋敷。取材が大の苦手という若原さんだが、実にユニークなことをたくさん手がけていらしたことがわかり、感服。しかもちっとも気負いがなく、きわめて自然体。身近に転がり込んでくる縁やチャンスを真摯に受け止め、次なる楽しいものへと繰り広げていく遊び心や、可能性を冷静に見極める洞察力、困難をも肥やしにする粘り強い実行力など、ポジティブに生きるコツを教えていただいた気がした。
取材:大橋 デイビッドソン 邦子 [グラフィックデザイナー]
写真:ゲスト提供
続きを見る