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HOME  > 卒業生インタビュー  > No.60 大畠 雅人[フリーランス原型師]

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No.60 大畠 雅人[フリーランス原型師]

大畠 雅人(おおはた・まさと)

フリーランス原型師
(2010 年[2009年度]造形学部油絵学科版画専攻卒業)
1985年生まれ、千葉県出身。大学在学中は演劇サークルに熱中し、卒業後もアルバイトをしながら舞台活動を継続。25歳のときに出会った原型師という仕事に強い関心を抱き、独学でフィギュアの制作を始める。2013年に造形会社の株式会社エムアイシーにアルバイトとして入社し、半年後、正社員原型師になり、数々の商業原型を手がける。31歳で独立。2015年冬のワンダーフェスティバルで初のオリジナル造形作品「contagion girl」を発表。翌年の冬のワンダーフェスティバルで発表したオリジナル2作目の「survival:01 Killer」は豆魚雷AAC(アメージング・アーティスト・コレクション)第7弾に選出される。オリジナルのフィギュア作品のデザイン制作や依頼に基づく可動フィギュア等を自宅アトリエで制作。2022年4月から放映開始したNHK「おかあさんといっしょ」の人形劇「ファンターネ!」の全キャラクターのデザインを手がけている。

Webサイト: https://twitter.com/shiyumaimai

【スライド写真について】
1. 本人ポートレイト
2. 作品「WITCH」2021年
3. 作品「WITCH」2021年
4. 作品集(中国語版)。作品のファンは国内外に多数いる。
5. 作品「百鬼夜行 怪」(一部) 2022年、大畠さんのお気に入りの一つ

プロフィールを見る

原型師という仕事に出会ってひらめいた
「美術を再び好きになれるかも...!」

– どうしてムサビを選んだのですか?

幼い頃から絵が好きで、小学一年生から油絵を習っていました。油絵を描いたり、バイオリンを弾いたり、完全な文化系タイプの子供でしたね。美大進学を目指して通った専門予備校は「東京藝大油画しかない!」という考え方だったので、それを目標にがんばりましたが、2年連続の不合格。大きく意気消沈し、ムサビとタマビには合格したものの三浪するか悩みました。奇しくもちょうどその年にムサビに版画専攻ができ、尊敬する銅版画の巨匠、中林忠良先生が客員で来られると聞いて、心を決めたのです。
銅版画を選び、白と黒で表現するグラデーションの深みが好きで、木の根のような具象と抽象の中間を描いていました。


大学時代に制作した銅版画

– 学生時代に夢中になったことは?

ともかく遊んでいた(笑)。演劇サークル「劇団むさび」に入り、夜中まで公園で練習をしたり、仲間と家を行き来して過ごしたりと、あまりまじめな学生ではなかったですね。劇団はいろいろな学科の学生の寄せ集めだったので、違う価値観に出会うことができました。また、インプロビゼーションという即興劇にはまり、自分で主催して学内で公演しました。
演劇熱は卒業後も冷めず、就職活動は一切せず、ラーメン屋でアルバイトしながら演劇活動を続けていました。自分の周囲にいた油絵学科出身の人たちも同じ考えで、誰かに雇われる以外の生き方をみつけていくのがごく自然に思えたのです。これで生きていくという確信や自信のようなものはなかったけれども、「楽しい生活をしていければいい」と。

– 原型師という仕事と出会ったのは

その頃、バンプレスト*の展開するプライズ(ゲームセンターの景品)の造形トーナメントで、「造形天下一武道会」があるのを知りました。これは『ドラゴンボール』を題材に、原型師たちが腕を振るってキャラクターを作り、人気投票によりチャンピオンを競うというものでした。初めて原型師という職業を知り、ものを作るというだけでなく、作り手の個性が反映される創作の自由さに憧れました。
実はこの出会いが、僕にとって大きなシフトチェンジでした。もう一度美術を好きになれそうな「ひらめき」を感じたのです。思い返せば「藝大の油画へ進学」という人生目標が破れた後は、それがトラウマで何を表現すればよいかわからなくなり、絵を描く意欲を失ってしまった。ひょっとしたら美術から逃げたくて演劇に走っていたのかもしれない。でも、原型師という仕事に出会った瞬間、全く未経験でありながら、「これが一生の仕事になる」と確信したのです。この仕事では自分でゼロから生み出さなくてもいいのだ。昔好きだった石膏デッサンのスキルが活かせるのかもしれないと。

*バンプレストとは:
プライズ用景品の企画・供給をおこなっている株式会社BANDAI SPIRITSのブランド


作品「人魚」2020年

– どうやって原型師になりましたか?

それからは、図書館で借りた本や、ネットやムック本等でフィギュアの作り方を猛勉強し、寝る間も惜しんで造形する日々。見よう見まねで作ったいくつかのフィギュアをポートフォリオにし、造形会社に持っていきました。運良く、最初に行ったフィギュア制作会社の大手エムアイシーで、造形のアルバイトとして採用され、27歳のときに正社員の原型師になりました。入社した当時はデジタル原型が格下に見られていたので、主流だった手原型を希望したのですが、デジタルチームに配属されしぶしぶ仕事をしていました。
でも、2017年に業界の新陳代謝が起こります。それまで3Dプリンターは2000万円以上の高額でしたが、家庭用廉価版が発売されたのを機に、一挙にデジタル制作が主流に逆転。大勢の造形師が独立し、同時にゲームやCGの製作者が原型師として参入してきました。僕もその流れに乗って、独立してフリーランスになりました。


フィギュアを着色する作業中


これまで作成したフィギュアたち

– 原型師の仕事の魅力と創造の源は?

原型師の仕事は本当に楽しいです。造形は奥深い。キャラクターの造形から、動き、周りの空気、そのキャラクターの内面と、様々なことを表現できます。僕は来年10年目を迎えますが、ようやく初心者マークが外れる感じです。うまくなればなるほどさらなる高みが見えてくる、一生の仕事として申し分ないやりがいがあります。一方、造形作家と違い、クライアントの希望に応えることが第一優先になるので、そこにやりごたえも感じますし、難しいところでもあります。
日々のささいな感情の揺れの中から作品は生まれます。アイデアと技術と感情の3つが上手く組み合わさった時に良いものが生まれると信じています。感情については怒りや悲しみ、無力感、絶望など、ネガティブなものが原動力になることが多いです。作品を作っている間は自己とこれ以上ないくらい向き合い、対話します。そうして昇華された作品を、誰かが見て共感してくれることがあれば、僕の人生はその瞬間だけ報われるのです。これまで、オリジナルの作品としては、好きなゲームからヒントを得たゾンビを題材にしたものやディストピアもの、水に映る鏡像部分も下に作り上げた作品などがあります。


作品「INTO THE DARK FOREST」2021年


作品「百鬼夜行 怪」 2022年、大畠さんのお気に入りの一つ

– 今後の展望

実はこの4月から始まったNHK『おかあさんといっしょ』中の新人形劇「ファンターネ!」のキャラクターのデザインの仕事を任されました。ある日突然、NHKからコンペへの参加を促すメールが届き、驚きました。キャラクターデザインなど、思ってもみなかった展開だったので。自分の作品を素直に作り続けることがワクワクするような仕事を運んでくれるのだと信じています。
これまで作ったことのないサイズの大きい造形や、映画やNFTアートにも興味があります。また、仕事以外では、世界を旅したい。旅に出ることで作品も変質していくのではと思うのです。


NHK Eテレ『おかあさんといっしょ』人形劇「ファンターネ!」©️NHK

– ムサビで学ぶ学生や卒業生へのメッセージ

たくさん浮気してください(笑)。僕は油絵で受験し、版画を学び、演劇をやりながら造形に出会いました。本当に好きなことや向いているものは意外と分からないもの。ムサビのコンセプトワード「生きる、をつくる。つくる、を生きる。」**のように、生き方をクリエイトする力が今の時代には重要です。型にはまらない、フレキシブルな生き方を選んでください。

**「生きる、をつくる。つくる、を生きる。」は、2009年にムサビの80周年記念事業コンセプトワードとして使われた。

編集後記:

「挫折は神様からのプレゼント」と、辛かった過去を冷静にみつめ直し、ポジティブに捉えられている大畠さんはとても真摯な人だ。「今がとても幸せ」と語る笑顔も輝いていた。フィギュアたちの彫りの深い美形の顔立ち、しなやかな筋肉、シワ一つまでリアルで美しい色使いの衣服、何か言いたげな上目遣いのまなざしをみつめていると、ミステリアスな表情に潜むストーリーがじわじわ湧き出てきて、彼らの世界に引き込まれそうな感覚を覚えた。

取材:大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
ライタープロフィール
名古屋市生まれ。1986年に早稲田大学政治経済学部卒業後、情報通信会社で企業広告、フィランソロピーを担当。その後、米国、パラグアイ、東京に移り住む。2006年に武蔵美通信コミュニケーショデザインコースを卒業後、再び渡米し、2008年よりスミソニアン自然歴史博物館でグラッフィックデザインを担当。2015年より東京在住。現在、京都芸術大学大学院在学。
http://www.kunikodesign.com/

撮影:野崎 航正(09学映/写真コース)

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