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No.64 森影里美[もりかげ商店]

NO.64 森影里美(もりかげ・さとみ)
もりかげ商店
(2009年[2008年度]武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業)

1986年北海道生まれ。室蘭栄高校を卒業。一浪の後、武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科に入学。卒業後は、料理とデザインを手がけるユニット「オカズデザイン」に入社。5年間経験を積み、28歳で独立。東京・目黒を拠点に「もりかげ商店」を営む。2022年3月より、北海道函館市に拠点を移す。

【スライド写真について】
1 本人ポートレート
2 もりかげ商店の焼き菓子。左上から:蕎麦茶クッキー、おからとコーンのクッキー、かりんとう・粗塩/ココア味
3 お話を伺った函館市内にある工房の様子。
4 もりかげ商店ロゴ

プロフィールを見る

ワクワクを信じて、「好き」を突き詰める。焼き菓子を通して得た自分の表現

─ ムサビ入学までの経緯を教えてください。

室蘭栄高校で過ごした3年間は部活動のバスケットボールに夢中でした。実は引退後に進路を考えはじめた当初、美大に行くなんて思ってもいなかった。家族には公務員が多かったので、警察官も考えていたくらいでした。ただ、小さい頃から好きだった絵を描くことで将来を考えてみた時に、どんな職業に就けるのかわからないけれど、物作りをする方がワクワクするという感覚はあって。
先生の後押しもあり、浪人を覚悟して美大を目指すことに決めたんです。高校3年生から札幌にある美術予備校の通信講座を受け、長期休みは札幌に泊まり込みで夏・冬期講習に通い受験対策という感じ。一浪の後、ムサビの視デに入学することができました。

─ どのような学生生活を送りましたか?

サークルの仲間とバスケして、飲みに行って、二日酔いで学校に行ってと今思えば不真面目な学生だったかもしれません(笑)。でも、ムサビって面白い人がたくさんいるんですよね。そういう人との出会いや一緒に過ごす時間がまず財産だったかな。

あとは、休みになると東京の各所のカフェやパン屋さん、お菓子屋さんをめぐっていました。自分が好きなものに対してはとにかく深堀するオタク気質なところもあって、特に個人の想いが詰まった小さな規模の作り手さんが好きで、調べては買いに行ったり。ある時、食に関連するイベントで、空デの卒業生でフードクリエーター・パン職人の三田 真由さんに出会いました。「私もムサビなんです」と声をかけてお話ししているうちに、ケータリングのお手伝いをさせてもらえることになったんです。そこで、食べ物に関わることを職業にしている方を間近で見て「ものづくりには、こういう選択肢もあるんだな」と感じました。

─ 卒業制作では、生産者さんの元を訪ね紹介する冊子の制作と実際にその素材を使った喫茶店をされていましたね。

そうですね。在学中に出会ってきたお店には、それぞれが使う原材料の生産者さんや器作家さんなど食を取り巻く人とのつながりがたくさんあったんです。だから自分は、お菓子を食べる人に、原材料をどんな人が作っているのか、目の前の食べ物のその先を伝えたかった。それに、お菓子も作って、パッケージデザインやブランディングをする。好きなことやって、卒業制作にもなっていいんじゃないって(笑)。


卒業制作展当時の写真。テーブルの上の冊子から空間全体を制作した。

─ 卒業後はどのような道に進んだのでしょうか。

就職活動でやりたいことをやっていくのかどうか考えたこともあったけれど、最終的に自分がワクワクする方を選んだのは高校生の頃と同じでした。勤めることになった「オカズデザイン」は、デザインだけではなく、テレビや映画、雑誌で料理の制作・監修をされているユニットです。学生の頃から主催されているイベントにもよく足を運んでいました。最初は、WEBや展示会のDM、名刺といったデザイン制作がメインでしたが、徐々に料理の方にも携わるようになって。好きなデザインも料理も、両方に携われたことに今でも感謝しています。

─ 現在の「もりかげ商店」を作ったのは?

28歳で結婚して少し前に独立した夫のデザイン業を手伝いながら、自分の活動もしていこうと思い5年ほど勤めた「オカズデザイン」を退職しました。お菓子に限らず食周り全般のものを扱う商店のようなイメージで、屋号は「もりかげ商店」と決めました。当時は、イベントやワークショップのケータリングで出すお弁当も作っていたんです。ただ、仕込みに盛り付け、販売、すべてをひとりでこなすには時間も足りず、どうしようかという時に、自分のやりたい表現ができると感じたお菓子作りに集中することにしました。


「お酒にもお茶にも合うので、いろんな場面で食べてもらえたらいいなと思います」と森影さん。

焼き菓子ってデザインに似ているところがあるんです。例えば文字組の細かな調整や、紙の白色も黄味がかっているか青味がかっているかで空気感が変わりますよね。
お菓子もシンプルになればなるほど、砂糖や塩、小麦の種類や、ほんの少しの量の差が重要になります。味が届いてくる順番や、使用する材料によって変わる味の色味や奥行きを、細かく調整するのが好きなんです。

─ 2022年4月からは、拠点を目黒から北海道の函館市に移されましたね。

今、函館にはたくさん人が集まってきています。以前、北斗市で農業を始める友人の元へ遊びに行った際、道南で活動する方々を紹介してくれて。この地域の素材や風土を生かした循環型のワイナリーやチーズ工房、地元の食材を大切に食べ手へ繋ぐ飲食店や酒屋さんたちに出会いました。それぞれが自立しながらも、地域のことを考えゆるくつながっているコミュニティの雰囲気やお話を聞いているうちにまたワクワクしてきてしまって(笑)、自分たちも、ここでものづくりをして暮らしていきたいと。

─ 移住後、これまでの「もりかげ商店」から変化はありましたか?

以前は八百屋さんで購入させてもらっていた原材料が、直に生産者から買えるようになったり、友だちの畑で自生しているものを採らせてもらったり。あとは、酒屋さんへ卸しているクラッカーは小麦粉の種類を変えていくつか作り、粉の旨みの違いを楽しめるようにしています。地域の美味しいワインとチーズが並ぶ食卓に、自分のクラッカーも並んだら嬉しいなと思い作り始めました。


函館市のカフェに卸している、日替わりの生菓子(この日は「レーズンバターサンド」)。

─ お菓子を作り、生産者さんとつながる。卒業制作からブレないものがありますね。

やっていることは変わらないかもしれないですね(笑)。私はこれまで好きなことしかやってきていませんが、それがあるから今があるのだと思います。今年は、ANAグループの機内誌『翼の王国No.634(2022.4)』で、はじめての仕事をさせていただきました。『長崎・雲仙 自然をつなぐ食の旅』という企画で、それも生産者さんや食に関わるオーナーさんにお話を伺い、文章にするという仕事です。まさか私にこんなお話をいただけるとは思っていませんでしたが、お菓子作りとは違う形で生産者さんや食について伝える仕事に携わる事ができて、本当にありがたいですよね。

─ 今後の展望を教えてください。

今は卸やオンライン販売がメインですが、いい場所との出会いを探しつつ、人に来てもらえる所を作りたいなと。あとは自分もこの地域で緩やかに循環する一員となれたら嬉しいですね。地方に移住して知ったのは、山や森が持て余されていること。山も管理されていないと荒れていきますが、きちんと管理すれば豊かな資源です。自然のサイクルの中で、必要な分だけ資源を自給する。どこまでできるかわかりませんが、そういう技術や知識、体力も身につけていきたいですね。

─ 学生たちへメッセージをお願いします。

はじめから何かの職業を目指そうとすると「〜をしなければ」という気持ちになってしまうかもしれませんが、職業は後からついてくることもあります。「かっこいいな」「おもしろいな」「心地いいな」と感じるままに、とにかく突き詰めていく。それも、ひとつじゃなくていろんな方向に手を出して良い。きっとそれが栄養のある土になって、いつかぽこっと出た芽は他にない面白いものになるだろうし、面白がってくれる人と出会えると思うんです。

─ 編集後記

私が学生として森影さんの卒業制作を拝見したのは2009年です。ムサビ構内に現れたお伽話の中に出てくるような喫茶店。森影さんが淹れてくださった珈琲と「楽しいと思うことをやっちゃいなよ!」と声をかけてくださったこと、今でも鮮明に覚えています。ワクワクに素直に従えるということは、自分の意志を持つ強さがあるからだと感じています。やっと自分のワクワクを選ぶことができるようになってきました。早くから私にそんなことを教えてくださった森影さんに、今、改めてお話を伺えたことを大変光栄に思います。ありがとうございました。

取材:細野由季恵(10学視/エディター・ディレクター)
ライタープロフィール
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。
好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

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