画家として、教育者として心がけていることは、人との信頼関係を大切にすること。
− どのような大学時代でしたか
絵ばっかり描いていたけれど、お酒もよく飲んでいました。構内の梅の木で梅酒をつくったり、休講になると同級生と酒盛りしていたね。大学院になったら社会勉強として先生に銀座に飲みに連れて行ってもらいました。
卒業制作は大学の買い上げになったけれど、先生から「うちの大学で買えるくらいの金額だから大した額じゃない」って言われましたね。
[msb! caravan]
高橋 伸 たかはし しん
画家、札幌武蔵野美術学院学院長
(1976年大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了)
1950年北海道生まれ。大学院修了後、エコール・デ・ボザール(フランス)に留学。
1980年東京武蔵野美術学院設立。
1987年に東京武蔵野美術学院役員退任後、札幌武蔵野美術学院を設立。
画家として独立展(独立賞、中山賞、安田火災美術財団奨励賞等受賞7回)ほか、多数出展。
(詳しい展覧会歴を文末に掲載しております。)
【スライド写真について】
1 ご本人ポートレイト、学院生の作品の前で
2 授業風景①
3 授業風景②
プロフィールを見る
− どのような大学時代でしたか
絵ばっかり描いていたけれど、お酒もよく飲んでいました。構内の梅の木で梅酒をつくったり、休講になると同級生と酒盛りしていたね。大学院になったら社会勉強として先生に銀座に飲みに連れて行ってもらいました。
卒業制作は大学の買い上げになったけれど、先生から「うちの大学で買えるくらいの金額だから大した額じゃない」って言われましたね。
赫月(第79回独立展出品作/2011年、200号)
− 卒業後はどうされましたか
パリのエコール・デ・ボザールへ留学して3年後に帰国。それからすぐに東京で武蔵野美術学院を立ち上げました。画家としてだけではなく教育者の道も選んだのは、自分の中のバランス感覚だろうね。絵画だけだと息が詰まっちゃう。それに、大学時代から美術予備校でアルバイトをしていたから、自然と教育者になる道を選んでいたのかな。
SITUATION(1996年、130号)
− 東京武蔵野美術学院の役員を辞めて、札幌武蔵野美術学院を創設した理由は
自分が北海道の苫小牧から美大を目指したという逆境の中での受験だったから生まれ育った北海道の美大受験を取り巻く状況を改善したいという気持ちがあったからだね。
− それから30年近く、同じ場所で活動を継続されているわけですね。大変だったことは
性格的なものなのか、大変と思ったことはないね。でも、現役の生徒が合格し過ぎて翌年の生徒が急激に減ってしまったことが時々あって、そんな時は自分の絵を売って資金繰りをして凌いだこともありました。それでも好きでやっていることだから、どんなに大変でも辞めたいと思わなかったね。
札幌武蔵野美術学院にてデッサンの指導中
− 画家として、教育者として日頃から心がけていることはありますか
それは人との関係を大切にすること。いろんな人の世話になってきているからね。学生を集めるときは高校に出向いて、先生や保護者に自ら説明もしますよ。絵の売買にしても、学校を選ぶ一番の決め手にしても、広告ではなくて人でしょ。この人なら安心して子どもを預けられると思うのは信頼関係ですよね。
− 画家として創作に向かわせるものは何ですか
好奇心です。幼い頃から地図を見ては、見知らぬ土地の人や生活を想像することが大好きでした。今でも新しい場所での出会いや発見は創作の原動力になります。絵を描くというのは、その土地や住む人をより深く理解するための方法や手段のひとつだと思っています。
− 画家としての今後の展望は
描きたいものを描きたいね。海外でもまだまだ発表したい。自分は一介の絵描きというか、風来坊でいたいのかな。絵描きには定年がないから残酷なもので、死ぬまで描かなくちゃいけない。ライバルが死んでいないからまだまだ頑張ります。
− これから創作活動を志す若い人へのメッセージをお願いします
絵画に関しては、ただ描き続けるのではなく、きちんと評価を伴う活動として少なくとも卒業後10年は続けてほしい。挑戦も継続もなく筆を置き社会にのまれていってしまわないで、10年続ければ何かしらの手応えはあるかもしれないからね。
− 編集後記
学院を訪れた際、ロシアの郷土料理をみんなで作るというイベントがたまたま行われていた。先生や生徒さん、みんなで和気藹々と準備している輪の中心にはなんと学院長である高橋氏。「先生、どうぞー」と生徒さんができたものを次々に高橋氏に差し出す。高橋氏の人気がうかがえる。日頃から先生と生徒の垣根を越えて接し、直接指導にもあたっているから、こんなに親密で温かい空気をつくれるのだなと思った。
取材:津田 知枝(97学建/アートマネジメント、ライター)
−展覧会歴
独立展(独立賞、中山賞、安田火災美術財団奨励賞等受賞7回)
ナント・アートフェスティバル招待出品(ナント市立美術館、フランス)
絵画今展(京都市立近代美術館、他)
北海道今日の美術(北海道立近代美術館、他)
安田火災美術財団奨励賞展(東郷青児記念美術館)
アジア芸術祭2000(グランプリ受賞、国父美術館、台湾)
上海万博協賛・中日韓美術選抜展(国立上海美術館、中国)
独立展北海道展(2013年、北海道近代美術館、札幌)
高橋伸展(2013年、ノボシビルスク国立美術館、ロシア)
続きを見る