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No.41 田中 陽明[co-lab 企画運営代表]

田中 陽明 (たなか・はるあき)
(1992年度 武蔵野美術大学建築学科卒業)

1970年福井県生まれ。
大手ゼネコン設計部を経て、慶應義塾大学大学院SFC政策メディア研究科(メディアアート専攻)修了。
2003年にクリエーター専用のシェアード・コラボレーション・スタジオ「co-lab」をオープン。
2005年春蒔プロジェクト株式会社設立。
現在、クリエイティブファシリテーターとしてco-labの企画運営代表を担当するとともに、様々な都市開発のブランディングディレクターを担当し、デザインから運営までコンサルティングを行う。

写真はすべてco-labの渋谷キャストにて撮影

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社会からの必要性が高まっているクリエイターたちの思考

−美大へ進学を決めた理由は

もともとデザインに興味があったのですが、出身地の福井県には美大の予備校もありませんし、デザイン関係者にも縁がなく……。デザイナーやアーティストになるということには、現実感をもつきっかけがない状況にありました。一方動物も好きだったため、高校2年までは獣医学科の受験勉強をしていたのですが、途中でどうしても美大へ行きたくなり、高校3年の春に御茶の水美術学院の春期講習を受講しました。そこで、あきらかに地元にはいない自由に生きるおもしろい人々との出会いがあり、本格的に気持ちがかたまりました。

−実際にムサビに入ってみて、どうでしたか

美大に入学していなければ絶対に出会えなかったような、エッジの効いた人たちが沢山いました。建築学科の先輩ではインテンショナリーズの鄭秀和さんやブルースタジオの石井健さん、大島芳彦さんらがいて、当時の先端を歩んでいるような先輩たちから、音楽やファッションなど、いろいろな影響を受けました。さらに、ヨット部にも魅力的な先輩たちがいて、とにかく先輩には恵まれましたね。

−先輩たちとの触れあいのなかで印象に残っていることはありますか

1年のとき、芸術祭に誘っていただいたのですが、体育館全体を使った空間演出など、すごくカルチャーショックを受けたことを覚えています。当時バブル期だったこともあって潤沢な予算があったこともあるのですが、とても学生とは思えないクオリティの高いイベントが開催されていました。接するもの全てが先進的で、大きな刺激を受けました。

−ほかにもムサビ時代の思い出として、強く印象に残っていることは

立川の米軍ハウスで共同生活していた時代は楽しかったですね。敷地内に4棟建っていて、全員ムサビ生だったのですが、それぞれに個性的な人たちが集まっていました。一棟は全員ハーレーに乗り爆音を出して帰ってくる人たち。もう一棟は舞踏系で何かあったらすぐ踊り出すような人たち、そして私たちはDJ系で音出して喜んでいるような人たちでした。そんな人々が夜な夜な敷地の真ん中にあった空き地に集まり、たき火をするんですよ。そして、なんとなく誰かが焼き物を持ってきて、パーティが始まる。カルチャーの違う人たちの集まりでしたが、そんな日々がすごく楽しかったです。

−まさに、御社のシェアオフィスの原点のような話ですね。ムサビ卒業後、今に至るまで、どのような経歴をたどってこられたのでしょうか

最初は大手ゼネコンの大林組に入りました。設計の仕事に2年半ほど携わったのですが、ハードだけをつくることにどうしてもやりがいを感じることができず、もっとソフトやコミュニティをつくることに携わって、「生きた意志」をもった建築をつくりたいと思うようになり、退社。それでSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)の大学院でメディアアートを学び、何人かでチームを組んで、メディアアーティスト活動を行っていたのですが、空間デザインとコミュニティデザインをすること両方の興味を実現できる作品として、シェアオフィスをつくり仲間を集めスタートしたのが、co-labの始まりです。

−今でこそ、コワーキングといった言葉が世の中に浸透し、コワーキング・スペースがいろいろなところにできましたが、co-labのスタートは2003年ですから、ずいぶんと時代を先取りされましたね

世界でも圧倒的に早いようです。それまで、友だち同士が集まってオフィスをシェアするということはあったと思いますが、床を用意して一般公募し、単に場を貸すだけではなく、コミュニティを作るといった現在のコワーキングの定義にあたるものは、おそらくco-labが一番最初だったのかもしれません。私たちは床代を稼ぐビジネスをやりたいという発想ではあまりなく、クリエイター専用のシェアオフィスのポテンシャルを生かし、集まった人たちの叡智を集合知として複雑で特殊な課題に対して答えていけるようなシステムをつくりたいという考えでした。このシステムを活用して斬新な商品の開発だったり、街づくりがしたい、という気持ちが強くありました。そして、最初は小さな仕事からチームを組んでいっていたのですが、そのうち仕事の規模が大きくなっていき、このビル(渋谷キャスト)のデザインディレクションの仕事のような大きな開発案件がどんどん増えていきました。

−今後、御社はどのように進化してくのでしょうか

現在、ブランディングディレクターとして大規模施設の開発などの仕事をいくつも請けていますが、毎回その中にコワーキングを入れ、ハコをつくった後の運営も考えてブランディングしています。ゼネコンの時のようにハコ(ハード)をつくるだけでなく、コミュニティ(ソフト)もつくっているわけですが、一番の理想はソフトを中心に据えてハードをつくるということです。建物をデザインするときに、中に入るのはどんなソフト(テナントや施設のエンジンとなる運営者)なのか、ということを最初から想定してデザインするということです。今までは、これが逆だったですよね。しかし、最近はデベロッパーやゼネコンの意識も変わりつつあり、施設を「生きた意志」をもったものとして、ソフトの運営まで行おうとする場合があります。ブランディングが必要な時に声がかかることがあります。このように、コワーキングは単なる床貸しの新しい方法ではなく、そこに集まっている人々の能力を活用して、その施設なり周辺に対して直接的に影響していけるような存在となっていくのが、今後の大きな役割だと思っています。ゼネコンをやめる時に思い描いていた建築への関わり方が四半世紀経ってやっと形になったような気がしています。

−co-lab:コワーキング施設が周辺に影響した例はありますか

墨田区亀沢にある印刷工場が事業主のco-labがあります。近年、印刷業界は衰退してきていて、非常に厳しい状況ですが、印刷会社とグラフィックデザイナーが組むことでV字回復した会社があります。その印刷会社はクリエイティブなコンサルをできるようになったことで、単価が約3倍になったそうですが、これもクリエイターの力が大きかったと思われます。

−クリエイターの活躍の場がどんどん広がっていますね

このような事例はたくさんあります。とくに、長年の慣習や文化により発想が凝り固まっている会社や組織の場合、クリエイターが関わることで凝り固まった思考パターンを融解する効果がみられます。そういうクリエイターというのは美大出身者が多いわけですが、美大生はまだ自分たちの強みや有効性に気づいていないのではないでしょうか。今、デザイナーは、ビジネスの現場でデザイン思考をもった人たちと見られ重宝されていますし、アーティストの思考は、エリートビジネスマンが0→1で発想するために有用な影響を与えています。そのようなニーズがあるわけですから美大生も自分たちのウリをしっかり分析し、言語化してアピールしていけばもっと社会的な地位が上がるのではないでしょうか。しかし、今のところそういった点を気づいていないですね。これは、美大の教育者も学生にそういった気づきを与え、しっかりセルフブランディングすることを教えないといけないと思います。

−ムサビで学ぶ学生へのメッセージをお願いします

感性で勝負することはこれからの時代、すごく重要になってくると思います。その点、美大生は普段からセンスや感性を競いあっていますから、それはすごい武器になると思います。そこは偏差値が高い総合大学の学生にだって勝てると思いますので、そこを最大限にアピールしてもっとクリエイターが牽引する社会をつくって欲しいと思います。

ライター:大学広報

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