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HOME  > 卒業生インタビュー  > No.42 岡田 勉 [スパイラル シニアキュレーター]

[msb! caravan]

No.42 岡田 勉 [スパイラル シニアキュレーター]

岡田 勉(おかだ・つとむ)
スパイラル/株式会社ワコールアートセンター シニアキュレーター
(1987年度 武蔵野美術大学造形学部 工芸工業デザイン学科卒業)

1963年、神奈川県横浜市生まれ。1982年、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科に入学。2年間の休学を経て、1988年3月卒業。株式会社ワコールアートセンターに入社し、スパイラルの学芸員(のちにキュレーター)となる。スパイラル内で開催するコンテンポラリーアートの展示に加え、外部施設・企業・公共団体のための企画展やパブリックアートの企画・プロデュースも数多く手がけている。2005年の愛・地球博では公式アートプログラム事業のキュレーターを務めた。また、横浜市の都市ビジョン「文化創造都市―クリエイティブシティ・ヨコハマ」のもと設立された横浜港の無料休憩所「象の鼻テラス」のアートディレクターとして数々のプロジェクトの中枢的役割を担っている。仕事で大切にしているのは「アート屋だということを忘れない」こと。自分の強みを見まがわないように、自分だからできることは何かを意識するよう心がけている。

【スライド写真について】
1 本人ポートレイト。
2 スパイラル外観。建築デザインは槙文彦氏。1階奥の吹抜けにある螺旋スロープにちなみ「スパイラル」と名付けられた。
3 スパイラル2階にある雑貨のセレクトショップ「スパイラルマーケット」。
4 SICF19(Spiral Independent Creators Festival 19)「EXHIBITION」会場風景。SICFは若手作家の発掘・育成・支援と目的として2000年より毎年開催。photo:ただ(ゆかい)
5 「スマートイルミネーション横浜2017」。photo:Hideo Mori

プロフィールを見る

アートのクリエイティビティを社会に活かしていきたい

−休学中に出会った現代美術に魅せられて

もともとは建築志望でしたが、数学嫌いのためにあきらめ、インテリアを選び入学しました。その後2年間の休学期間中に現代美術と出会ったのです。その頃足繁く通っていたかんらん舎やギャルリーワタリ(現、ワタリウム美術館の前身)で、オノ・ヨーコやキース・へリング、ジャン=リュック・ヴィルムートといった世界的に著名なアーティストに接し、ヨーゼフ・ボイスなどの前衛作家の斬新な作品に大きな衝撃を受けました。
その後復学してインテリアの勉強を始めたものの、図面のトレースといった退屈な授業内容にほとほと嫌気がさして、一時は学校を辞めようかとまで思い詰めました。幸いにもテキスタイルの田中秀穂先生に「何をしててもいいからうちに来たら」と声をかけていただき、テキスタイル専攻に転向。
横浜から毎朝10時過ぎに通学し、風月(当時の学食)で食事をし、夜8時頃まで作品づくりに没頭するという毎日を繰り返していました。しかしいわゆるテキスタイルの分野には関心が持てず、染めも織りもやらず仕舞い。むしろ興味があったのは素材の方で、布や糸を使うだけでなく、素材とその化学変化を探求するなど、中世の錬金術に傾倒していましたね。大きい作品を旺盛につくり、展覧会も積極的に行っていました。


ムサビのテキスタイルコースと陶芸コースの卒業展が行われていた。

−スパイラルでキュレーターの仕事をするようになったきっかけは

当時はバブル真っ盛りで美術館が急増した時期でしたが、そこで扱われる作品は集客が望めそうな有名作家のものばかりで、現代美術はほとんどなく、現代美術専門のギャラリーも銀座に数件あるだけでした。
日本でも1950~60年代に、旧態然とした美術の枠組みに収まらないような表現活動がいっぱいあったのですが、それらのユニークな作品や活動はすべて破棄され、写真でしか残っていませんでした。当時制作を行っていた身としては、自分が現代アート作家として生きていけるように社会の状況を改善させるために、しばらく“仕組み側”に回るしかないと考えて、教職免許とあわせ学芸員資格も取りました。美術館等に絞った就職活動の末、スパイラルに初の専門職学芸員として採用されることになったのです。結局、仕組み側の仕事がおもしろくなり30年以上も続けています。

−スパイラルが館外で繰り広げる事業について

当初はスパイラルのビルの中での文化事業活動がメインでしたが、次第に、外国・自治体・企業からアートプロジェクトにおけるノウハウの提供を依頼されるようになりました。そこで現在は2000年に発表した「アートライフ宣言」に基づき、プロダクトから街づくりまで幅広いアートプロデュース事業活動に取り組んでいます。
例えば2000年より始まった「Rendez-vous Project(ランデヴープロジェクト)」は、技術者、研究者、科学者、職人、アーティストやデザイナーなど、今まで接点の少なかった人同士が「出会い(= Rendez-vous)」、新しい視点を活かしたモノづくりを提案していくという企画です。静岡市とアーティストの「出会い」では、伝統工芸の「ヒノキの下駄」を、コスチュームアーティストのひびのこづえさんが現代的にリデザインし、大好評を得ました。また、現在は横浜の障害者施設とクリエーターが「出会い」、特色を活かしたモノづくりが進んでいます。


HIBINOKODUE+MIZUTORI/ひのきのはきもの

2009年に横浜開港150周年を記念して設立された無料休憩所「象の鼻テラス」は、スパイラルが企画運営を任され、アートディレクターを務めています。ここでは観光情報の提供やカフェサービスに加え、アート、パフォーマンス、音楽など多ジャンルの文化プログラムを常時開催し、市民の憩いの場・文化発信の拠点となっています。


象の鼻テラス Photo: DAICI ANO


象の鼻テラスのシンボル「時をかける象(ペリー)」 Photo: Katsuhiro Ichikawa

−アートの力を社会問題に結びつけていく

アートが持つ創造性や新しいアイデアを、モノづくりから社会問題の解決にいたるまで、もっと活用・応用した方がより良い社会になるのではないでしょうか。スパイラルはこれまでの経験や培ってきたノウハウを礎に、社会性のあるアートプロジェクトを数多くディレクションしてきました。
今年の初め、象の鼻テラスで開催された「OUR PLASTIC展」では、廃棄プラスティックの海洋汚染問題を題材に、世界中から集められたプラごみと人々の声を紹介し、トークやワークショップ、映画上映などを通じて、プラスチックの利用についてみんなで考えようと呼びかけました。


「OUR PLASTIC展」これは創造的な街づくりを推進する世界各地の港町との文化交流プロジェクト「ポート・ジャーニー・プロジェクト」の一環として企画された。 Photo: Hajime Kato

また、東日本大震災の後、多くの場所でエネルギーの使い方や暮らし方の見直しが問われるようになりましたね。そこで、環境・省エネ技術とアートを掛け合わせて、環境にやさしい「スマート」な夜景づくりを試みる国際アートイベント「スマートイルミネーション横浜」が、2011年より毎年開催されています。
ほかにもオリンピックで「パラ」があるならアートでも、という発想から、「ヨコハマ・トリエンナーレ」開催年に「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」を2014年から開催。これは、障害者と多分野のプロフェッショナルたちによる現代アートの国際展で、第3回目が2020年に計画されています。あわせて障害者の創作活動をサポートする伴奏者の育成も、大切な課題のひとつとして取り組んでいます。


「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017」photo:Hjime Kato


「SLOW MOVEMENT-Showcase & Forum vol.3-ソーシャルサーカスの可能性」イベント。ソーシャルサーカスとはシルク・ドゥ・ソレイユが開発したマイノリティ(経済的貧困者や身体障害者など)の社会参画を支援するためのプログラム。

−ムサビの学生へのアドバイス

学生時代にもっと先生たちと話すべきだったと非常に後悔しています。昨今は先生と学生が互いに牽制しあってコミュニケーショが希薄と聞きましたが、ばかげた話です。学校は学ぶ場であり、そこにいる大人たちにしか伝えられないことがたくさんあるはずです。ぜひ有益に使って欲しいですね。
また、美術大学で学生が先生を選べないのは日本ぐらいです。これは学校側の問題だけではなく、学生側の意識が低いのも問題です。そこでヨーロッパの大学の自由さを学生たちに経験してもらおうと、今年の夏、パリの国立芸術大学と日本の学生や若いアーティストが協働する展覧会を企画しています。これからも、日本の新しいアート教育の形を開発していく足がかりとして、自分自身ができることを思いつく形で実践していきたいと思っています。


1階から2階への階段に続くエスプラナード(散歩道の意)は時間潰しに最適の空間。

スパイラル:1985年、株式会社ワコールが「文化の事業化」を目指して東京・青山にオープンした複合文化施設。館内には現代美術のためのギャラリー&カフェ、多目的ホール、レストラン、生活雑貨ショップやトータル・ビューティサロンなど、多種多様なスペースが共存。今日的な課題やニーズに応じた展覧会やイベントを多数自主企画し国内外のアーティストを紹介するとともに、若手クリエイターの発掘・育成・支援活動にも力を入れている。
https://www.spiral.co.jp/

−  編集後記

スパイラルは不思議なビルだ。“ファッションビル”、“ミュージアム”、“飲食ビル”のように一つのコンセプトで言い表すことができない。シンプルな内装は都会的で洗練されているが、気取りを感じない。行くたびに心惹かれるモノに出会う。何か新しいことが起こっている予感がする。30年以上たってもその魅力も存在感も全くぶれていないのは、岡田さんのような人がスパイラルをずっと守り育て、発展させてきたからなのだなと納得した。

取材:大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
ライタープロフィール
名古屋市生まれ。1986年に早稲田大学政治経済学部卒業。NTTに8年間勤務し、広告宣伝や展示会、フィランソロピーを担当する。その後、米国ワシントンDC、パラグアイ、東京に移り住み、2006年に武蔵野美術大学造形学部通信教育課程デザイン情報学科コミュニュケーションデザインコースを卒業。2008年よりスミソニアン自然歴史博物館のグラッフィックデザイナーになり、現在も東京よりテレワーク中。NPO団体のデザインも手がける。
http://www.kunikodesign.com/

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