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No.45 嘉村靖子 [絵本作家・イラストレーター]

嘉村 靖子(かむら・やすこ)
絵本作家・イラストレーター・日本児童出版美術家連盟会員
(2007年度 武蔵野美術大学造形学部 通信教育課程デザイン情報学科卒業)

新潟県燕市出身。新潟デザイン専門学校卒業。これまでに出版された絵本は『うそつき男しゃくあらわれる』(カワイ出版、2001)、『おばけのだっこ』(タリーズコーヒージャパン、2011/タリーズピクチャーブックアワード絵本大賞)、ユニバーサルデザイン絵本*の点字つき絵本では、『おでかけまるちゃん』(UD絵本センター、2004/Best Illustration Of The Year 2004最優秀エディトリアルイラスト賞)、『へんしんまるちゃん』(UD絵本センター、2014)、『ぐるりんまるちゃん』(UD絵本センター、2017)、『りんご』(UD絵本センター、2013)、電子書籍絵本『ながいながいえんちょうせんせいのおはなし』(現代学舎、2014/岩崎書店賞)、『やまたろとやまじろのせいくらべ』(現代学舎、2015/創作童話・絵本・デジタル絵本コンテストKid’s Express大賞)など。その他、雑誌や挿絵など多数手がけている。好きなことは散歩、読書、らくがき、人の話をきくこと。

*ユニバーサルデザイン(UD)絵本:目の不自由な人を含め、誰もが触って楽しめる、点字はもちろん、絵柄にあわせて誌面に凹凸がついた絵本

【スライド写真について】
1 本人ポートレイト
2.月刊絵本チャイルドブックジュニア「おばけちゃんのかいすいよく」(チャイルド本社)
3.ユニバーサルデザイン絵本『へんしんまるちゃん』『りんご』(ユニバーサルデザイン絵本センター)
4&5.インタビュー場所としておじゃました「手と目で見るライブラリー」(新宿区西早稲田)

プロフィールを見る

楽しく、おもしろく、絵本をつくり続けていきたい

−絵本づくりをするようになったきっかけは

デザインの専門学校を卒業後、しばらくのブランクを経て少しずつカットやイラストの仕事を始めました。そうしてある時期、自分が描いたイラストが絵本制作部や編集部にまわされることが続き、自然と私自身の絵本を出すことになったのです。最初の本は2001年にカワイ楽器の出版社から発行された『うそつき男しゃくあらわれる』。これはすべて手描きでつくりましたが、そのときの編集者の強いすすめに従い、いただいた原稿料でパソコンを購入。パソコンはその後の絵本づくりにとても役立つことになりました。


『うそつき男しゃくあらわれる』

−ムサビ時代のエピソード

絵本づくりがとてもおもしろかったので、絵本を通じたコミュニケーションについてもっと学びたいと思い、ムサビに入りました。その頃は二冊目の点字つき絵本の制作と重なり大忙しで、上京するスクーリング日程に合わせて出版社との打ち合わせを組むなど、学業と仕事の両立に四苦八苦していました。
最も印象深い授業は卒業制作です。誰もやっていないテーマで小さい子供たちとできることがいいなと考え、子供を対象にした参加型のおすもう紹介セット「おすもうきゃらばん」をつくりました。ちょうどそのころ相撲界のスキャンダルが続いた直後だったので、伝統文化の相撲のイメージを回復し、次世代の応援層の育成につなげたいと思ったのです。力士の大きさ・食・生活・相撲にかかわる人々を、仕掛け絵本・衣装・道具・簡単な実技を組み込んだ台本などで表現し、おすもうの楽しさ・おもしろさを紹介しました。
制作途中で行き詰まると、担当の先生から「描け。わからないことも絵にして説明すればいい。」とアドバイスされ、さらに迷っていると、「手をうーごーかーすー。」と何度も励まされました。今でも絵本づくりで行き詰まるとこの言葉が思い出されるのですよ(笑)。


卒業制作「おすもうきゃらばん」卒業制作作品集より

−ユニバーサル絵本をつくるようになったきっかけは

最初の絵本の出版後、またつくりたいと思っていた矢先、NPO 法人ユニバーサルデザイン絵本センターが点字つき絵本の制作者を探していることを知りました。そして、点字併記の絵本づくりには、文字数や絵の位置などいろいろなルールがあり、出版されるまでにはなかなか難しいプロセスを辿ることも教えられたのです。そこで、自分もどこまでできるかわからないけれど、絵本づくりの仲間に入れてもらうことにしました。それから経験豊富な人たちに助けられながら、紆余曲折を経て、「まるちゃんシリーズ」が誕生したのです。


『おでかけまるちゃん』

−まるちゃんシリーズとはどんな絵本ですか

絵本の主人公まるちゃんは、人でも動物でもなく、丸い形の円そのもので、凹凸をつけて、サクランボや洋服のボタン、音符の記号、ボールなどに変身し、冒険を繰り広げます。文章には点字を併記し、さらに、色覚障害や弱視の人も読みやすいよう、色のコントラストにも気を配りました。『おでかけまるちゃん』ではお母さんと一緒、『へんしんまるちゃん』ではお友達と遊び、『ぐるりんまるちゃん』ではいろいろな場所を訪ねて世界を広げていくというように、シリーズを通じてまるちゃんが成長することを意識しました。特に『ぐるりん』は、本の上と下をひっくり返しながら読み進めるという、今までになかった絵本になっていて、上下が逆になると違う絵に見える「だまし絵」的なトリックも取り入れています。


『へんしんまるちゃん』

−点字つき絵本づくりが普通の絵本づくりと違う点は

まず文章の量が違います。点字つきの方はワンフレーズが10数文字程度の短い文で構成されます。10ページ前後の作品が多く、ひたすら短くわかりやすい言葉を選ぶため、俳句づくりのように語数を指折り数えながら整えています。また、さわったときに区別がつくよう文章どうしがある程度離れていること、見分けがつきやすい色使いにすること、細かい作業が苦手なお年寄りでも扱いやすい造本にすることも大切です。
自分ではわかりやすいようにつくったつもりでも、読者にとってはわかりにくいということもあります。見えるってどういうこと?、色も文も形も全部含めて、わかりやすく伝えるってどういうことなのだろうと常に考えさせられます。

−ムサビで私が気づいたこと

ムサビの通信課程には非常に才能のある人たちが集まっていました。その中で学んで何かができるようになったというより、私にはデザインのああいう感覚がないのだなとか、こういうのは難しいのかなというように、自分のできないこと、苦手なことに気づくことができました。逆にそれはプラスになっているのかもしれません。
学部や専門課程が異なると、出会わないまま卒業してしまいます。でも、意外なところで結びつきや出会いがあるのでムサビって面白いなと思います。

−  編集後記

インタビュー場所としてお借りした「手と目で見るライブラリー」には、点字本だけでなく、模型や飾り物や手で見る絵などが所狭しと展示されていた。嘉村さんの絵本やそれらの模型を目をつむってさわってみたが、湧いてくるイメージが情けないくらい乏しい。いかに自分の認知力が視覚に頼っているのかを思い知った。UD絵本は一枚の紙を蛇腹に折って仕上げられ、金具は一切使われていない。つくりも内容も絵本作家をはじめ大勢の人たちの知恵と工夫と心配りがあちこちに施されていて、目の不自由な人たちに寄り添う優しさの結晶なのだなと感じた。

取材:大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
ライタープロフィール
名古屋市生まれ。1986年に早稲田大学政治経済学部卒業。NTTに8年間勤務し、広告宣伝や展示会、フィランソロピーを担当する。その後、米国ワシントンDC、パラグアイ、東京に移り住み、2006年に武蔵野美術大学造形学部通信教育課程デザイン情報学科コミュニュケーションデザインコースを卒業。2008年よりスミソニアン自然歴史博物館のグラッフィックデザイナーになり、現在も東京よりテレワーク中。NPO団体のデザインも手がける。
http://www.kunikodesign.com/

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