坂田 夏水(さかた・なつみ)
空間デザイナー/株式会社夏水組 代表取締役
(2004年[2003年度]武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業)
1980年、福岡県生まれ。2004年、武蔵野美術大学造形学部建築学科を卒業後、一級建築士事務所に入社。工務店、不動産会社を経て、2008年、28歳で「夏水組」を設立。2010年に法人化。
2013年、東京・西荻窪にDIYショップ「GONGRI」を出店。2016年、代官山に移転し、インテリアマテリアルショップ「Decor Interior Tokyo」をオープン。壁紙やペンキなどの定番グッズから、床材や建具などの資材まで多くのインテリアグッズを揃える。夏水組ブランドの塗料や壁紙も販売中。
著書に『夏水組 インテリア・コレクション』(2014年、けやき出版刊)、『初めてでも失敗しない! リフォーム&インテリアアイデアBOOK』(2014年、メディアファクトリー刊)、『セルフリノベーションの教科書:「塗る・貼る・つける・飾る」でちょっと内装に手をいれるだけ』(2017年、誠文堂新光社刊)など多数。
夏水組 Webサイト : http://www.natsumikumi.com
Decor Interior Tokyo Webサイト : https://decor-tokyo.com
【スライド写真について】
1 本人ポートレート
2 シェアハウス「COFFRET」(東京都)
3 代官山のインテリアマテリアルショップ「Decor Interior Tokyo」。坂田さん曰く、「雑貨でもなく完成されたインテリアでもない。あくまで素材や材料を、ファッションと同じようにショッピングできるような場所にしたかった」とのこと。
4夏水組オリジナルのペンキ
5 DIY関連、家造りのヒントが満載の書籍も多数出版
日本の住まいをもっと自由に、もっと楽しく、もっと暮らしやすく。
−ムサビを選んだ理由は
高校は理系だったので、工学部の建築学科に進もうと漠然と思っていたのですが、3年生になって進路を考える中で、美大の建築学科に行きたくなってしまって。小さいころから絵を描いたり、色や柄を組み合わせたりするのが好きだったんです。現役の時は千葉大学一本でしたが、不合格だったので、これ幸いと浪人し(笑)、ムサビの建築学科に入学しました。
私が学生だったころは夜遅くまで教室に残ってもOKだったので、遅くまで粘って課題をやりました。みんなで模型やパースをつくり、終わったら飲み会へ行くというのが恒例でしたね。
−大学時代はバックパックひとつでよく旅をされたそうですね
アルバイトでお金を貯めては旅行していました。伝統建築やモザイクタイル、壁紙など古くから変わらない手仕事を見るのが好きで、フランスやイタリア、ドイツなどを一週間~10日くらいかけてじっくりと回りました。古い建築物を見に、アジアもよく訪れました。いまインテリアの商材を扱う仕事もしているのですが、この旅で実物を見まくった経験はすごく役立っていると思います。
−卒業後は一級建築士事務所に就職するも、数年で工務店に転職されました
大学時代から一級建築士の方の事務所にアルバイトで出入りしていて、拾っていただいたんです(笑)。ヘルメットをかぶって現場で働くのが性に合っていたのでしょう。そのうち、自分は設計よりも現場監督のほうが向いているのではないかと思うようになりました。一方で建築界のヒエラルキー──設計事務所の上に工務店があり、その上に不動産屋があるというピラミッド型の構図も見えてきた。資金を出すのは不動産屋であり、いくら建築士がセンスのよいデザインやコンセプトを提示しても、間の工務店が「そんなのできない」といって突っぱねるケースが多いんですよね。それで「施工をもっと勉強しよう」と思い、2007年、工務店に転職しました。
インテリアマテリアルショップ「Decor Interior Tokyo」の店内。雑貨だけでなく空間ごとデザインしているので、住みたい部屋のイメージが膨らむ
そこは少数精鋭の工務店だったので、設計、施工、現場管理、見積もり、営業、契約と、すべてひとりでやらせてもらいました。主にリフォームや原状回復ですが、2年間、現場監督として頭にタオルを巻き、鼻くそが真っ黒になるような生活をして(笑)、それで一通り「建築」のイロハを理解した感じです。
その後、利回りとか投資後のリターンやパフォーマンスの実情を知りたくなり、不動産屋に転職するのですが、リーマンショックの影響で半年で倒産してしまったんです。
色とりどりのタイルやマスキングテープが整然と並ぶ店内
−それで独立されたのですね
28歳でした。社会的にはまだまだの身分だとはわかっていましたが、その時点でどれだけ自分ができるのかを試してみたかった。ありがたいことに、工務店時代のお客様が餞別だといって300~400万円で中古不動産を再生するという案件をいくつか依頼してくださり、最初の3カ月を乗り切れました。当初はぜんぜん自分の趣味とは違う、コテコテのガールズ部屋とかをつくったりしたんですよ(笑)。いまも住宅の内装デザインや店舗のプロデュースなど多くの案件を手掛けています。
リノベーション物件「Rosa 001 新宿御苑」(東京都杉並区)
−今後の展望は
ふたつあります。まず、国土交通省が定義した「DIY型賃貸借契約」を普及させること。そのためにインテリアマテリアルショップ「Decor Interior Tokyo」をオープンし、ワークショップや講演を主宰して、ノウハウを広めています。
ゴッホの「花咲くアーモンドの木の枝」をモチーフにした壁紙を広げる坂田さん
ふたつ目は、海外の壁紙を売るだけではなく、襖紙を自社ブランドで展開してヨーロッパ圏で販売すること。年に2回、「Maison et Objet」という世界でいちばん大きなインテリアの展示会があるのですが、先日3度目の出品を果たしました。ヨーロッパの人たちに価値をわかってもらえたら嬉しいし、逆輸入的に日本でも広まるといいなと思います。
ヨーロッパでも販売中の「JAPANESE WASHI TAPE」(左からそれぞれ「菊七宝」「葉桜」「唐草更紗」)。特殊な糊を使用し、家具や壁に貼ってはがせる
−最後にムサビで学ぶ学生にメッセージを
人生において非常に限られた、なんでも許される自由な時期です。学業に本気で取り組み、同時にしっかりと遊んでほしい。アルバイトや旅先で知り合う大人が将来の道をいくつか示唆してくれることもあります。出会いを大切に、そして自分が「こうしたい」という勘を大事にしてください。
取材:堀 香織(92学油/フリーランスライター兼編集者)
ライタープロフィール
鎌倉市在住のライター/編集者。雑誌『SWITCH』の編集者を経て、フリーに。『Forbes JAPAN』ほか、各媒体でインタビューを中心に執筆中。単行本のブックライティングに、是枝裕和著『映画を撮りながら考えたこと』、三澤茂計・三澤彩奈著『日本のワインで奇跡を起こす 山梨のブドウ「甲州」が世界の頂点をつかむまで』など。是枝裕和著『希林さんといっしょに。』、桜雪(仮面女子)対談集『ニッポン幸福戦略』などの編集・構成も担当。
https://note.mu/holykaoru/n/ne43d62555801
撮影:野﨑 航正(09学映/写真コース)