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No.50 加藤 優子 [祭り専門家/(株)オマツリジャパン 代表取締役]

加藤 優子(かとう・ゆうこ)

祭り専門家/(株)オマツリジャパン 代表取締役

(2012年[2011年度]武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業)

1987年、東京都生まれ。2008年、女子美術大学美術学科洋画専攻に入学。3年次に武蔵野美術大学造形学部油絵学科に編入し、2012年に卒業。漬物メーカーに就職し、商品開発とパッケージデザインを担当する。2012年、Facebookにお祭りのファンサイト「オマツリジャパン」を立ち上げる。2足のわらじで行っていたお祭り支援活動が次第に本格化し、2014年に一念発起して退職。同年7月に任意団体オマツリジャパンを創業。2015年11月に法人化。現在は地域自治体のお祭りプロデュース、ツアー企画、デザイン、広報活動など、お祭り運営全般を手がけている。
Webサイト:https://omatsurijapan.com/
オマツリジャパン動画サイト:https://www.youtube.com/watch?v=gL6GMx19n3E

 

【スライド写真について】
1. 本人ポートレート
2. 茨城県笠間市観光課の依頼を受け、外国人向けのプロモーションを行う昭文社と3者で包括的連携協定を組み、参加体験型ツアーの実施や、それに伴うプロモーション、情報発信を続けている。2015年夏の「笠間のまつり」当日は、「ねぶたの跳人(はねと)」として祭りに参加。笠間稲荷神社にちなみ、狐の耳をつけて仮装し、祭りを盛り上げた。
3. 東京・神田明神境内で毎月定期開催される「江戸東京夜市」にて、歯磨き粉・洗口液のサンプルを配布。プロモーションしたい商品の特性を踏まえ、マッチ度の高いお祭り会場での商品プロモーションを実現している。
4. 毎年8月に広島県三原市で開催される「三原やっさ祭り」の「やっさ踊り体験ツアー」に参加した訪日外国人。三原市より依頼され、スケジュールと受け入れ態勢を整え、情報発信を行った結果、総勢12カ国21名が参加した。
5. オマツリジャパン経営陣。左から共同代表の山本陽平(立命館大学卒。NTT東日本を経て、加藤と起業)、加藤、取締役の橋本淳央(京都大学卒。J:COMを経て、2017年より経営参画)。「そもそもふたりはお祭りが大好き。出会ったころは20代後半で、『このまま大企業にいるよりも、好きなこと、面白いことをしたい』という夢があったんだと思います」(加藤)

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アートの表現力や発想で“祭り”をサポート、日本を元気に!

−ムサビで印象に残った先生は?

「食はエロスである」と明言し、アートと食の関連について説いていた油絵学科の長沢秀之先生(現名誉教授)です。私の場合、幼い頃から絵は大好きでしたが、予備校時代に「人の心が動けばどんな表現でもいいんだ」と腑に落ち、美と実益を兼ねた「食」に興味が移っていました。
2011年3月に東日本大震災が起きたとき、私は大学3年生で、未曾有の災害下において絵はなんの役にも立たない、という無力感に襲われてしまって……。そのとき、震災後の私の気持ちの揺れを長沢先生だったら理解してくれるのはないかと思い、教えを乞うようになったんです。

−他にムサビでの忘れがたい思い出はありますか?

4年生のときに芸術祭で「てがみや」というクッキーを売る模擬店を出したこと。英語の文字などを焼いて、励ましや祈りや告白など“メッセージ”にして誰かに渡す、というコンセプトを考えました。お好み焼きや焼きそばを売る店とは違い、クッキーという食べ物ではなく「手紙を渡す」というある種のコンセプトアートを販売したわけですが、それが成功したのは本当に嬉しかったです。
友だちも一気に増えました。模擬店づくりを通して、もともと仲がよかった人とさらに仲良くなり、学年下の建築学科の人とも新しく知り合えて。仲間内で結婚した人までいたんですよ。芸術祭マジックですね(笑)。


模擬店「てがみや」。一緒に手がけた油絵学科の友人と従兄弟のいる建築学科の仲間たちとの記念写真

−卒業後は漬物会社へ就職。その勤務時代にFacebookでオマツリジャパンのサイトを立ち上げています。

震災直後の8月に、青森のねぶた祭りを見た経験が大きかった。観光客はほとんどいませんでしたが、地元の人たちは本当に盛り上がっていたんです。日本全体が笑顔も元気もなく、「知り合いの誰それが亡くなった」という悲しい話ばかりのときに、そういう日常を忘れ、大人から子どもまで楽しそうにしているのを見て、祭りは地元の人々の生き甲斐や心の支えであり、日本の元気の源なのではないかと思いました。
日本のお祭りは1年に30万件もあります。その一方、270万人の観光客を集められる青森のねぶた祭りですら、跳人(はねと:踊り手)がどんどん減って元気が失われつつある。私が卒業後に漬物会社へと就職したのは「日本に古くからあるものを、アートの表現力や発想を使って現代に即したものにアレンジし、広めたい」という想いがあったからですが、お祭りも同様にアートの力で助けられるのではないかと。そんな中、共同代表の山本陽平と知り合って、オマツリジャパンという社会人サークルをつくることになりました。
当初はサークルの仲間と休日、東京近郊のお祭りに参加するだけでしたが、「祭りの企画アイデアと運営の人手がほしい」というニーズが多数あることに気づかされ、現在の日本にはなくてはならない事業であると確信、会社を辞めて起業しました。


事務所の壁に貼られている日本各地の祭りのポスター

−定期収入のある企業勤めを辞め、海のものとも山のものともわからない世界へ飛び込めたのはなぜですか?

お祭りが大好きというのはもちろんですが、もともと「困っているところに稼げるポイントが必ずある」と感じていて、本腰を入れてそのポイントを探そうと。
ただ、祭りというのはお金儲けのためにやっているわけではないので、たったひとりで奮闘していた3年半は、ほぼ無給で死にかけました(笑)。めげないで続けられたのは、やはり全国でお祭りに関わる皆さんが本当に困っているから。そして、意外にも若い人たちが集まってきて、仲間になってくれたからです。
共同代表の山本と取締役の橋本淳央もそのうちのふたり。彼らと試行錯誤し、お祭りを活用して地域に人を呼びたい自治体からの依頼を受けたり、人が大勢集まる場所でPRしたい企業をクライアントにしたりすることで、ようやく安定した収入を得られるようになりました。


企画中の「オンライン夏祭り2020」について説明する加藤さん。新型コロナウイルス蔓延の影響を受け、中止になった夏祭りを2020年8月15日(土)にオンラインで楽しもうという企画。

−今後の展望は?

新型コロナウイルスに対する自粛が収まり、日本のお祭りがもとの状態に戻る前提ではありますが、もっとお祭りに行くハードルを下げたい。ムーブメントをつくりたいんです。
お祭りって小学校を卒業したらだんだん行かなくなる人が多い。その一方で、私たちのようにやたらとあちこちのお祭りに参加する人もたくさんいる。なぜ行くのかというと、自分が好きなお祭りを知っているからです。盆踊りが好きな人もいますし、喧嘩神輿が好きな人もいる。私自身は青森のねぶたのように、提灯の光るお祭りが好き。
しかし、実は総括された情報というのがないんですね。そこでオマツリジャパンが情報をまとめ、人々がお祭りに行きやすい状況をつくろうと。お子さんがいる家族なら子連れでも行きやすいお祭りの情報を提案するとか、好きであろうお祭りをレコメンドするような機能を制作するとか。多方面からサポートすることで、そのお祭り自体がもっと魅力的になっていくのではないかと思っています。


2019年のねぶた(山車灯籠)のひとつ、竹浪比呂央作「紀朝雄の一首千方を誅す」(写真 オマツリジャパン提供)

−最後に、一番好きだという青森のねぶた祭りの魅力を教えてください。

光るお祭りが好きというのもありますが、5万人もの人々(跳人)がそれこそライブ会場の最前列くらいに熱狂していて、あんなに一体感のあるお祭りってそんなにないんじゃないかと思うんですよね。それにねぶた(山車灯籠)自体もすごくアーティスティック。ねぶたには設計図というものがなく、ねぶた師が描いた「絵」から急に「立体」になるので、彫刻家でも難しいような脳の構造をしている(笑)。それこそ彼らは「ねぶた大賞(ねぶた本体・運行跳人・囃子の総合評価で運営団体に最優秀賞が贈られる)」を獲得するために1年がまわっていますから。
祖母や親戚とお酒を飲んでねぶたを見る、という至福はかけがえがないものです。早くコロナ禍が収束し、ねぶたを含め全国のお祭りが再開することを心待ちにしています。

取材:堀 香織(92学油/フリーライター兼編集者)
ライタープロフィール
鎌倉市在住のライター/編集者。雑誌『SWITCH』の編集者を経て、フリーに。『Forbes JAPAN』ほか、各媒体でインタビューを中心に執筆中。単行本のブックライティングに、是枝裕和著『映画を撮りながら考えたこと』、三澤茂計・三澤彩奈著『日本のワインで奇跡を起こす 山梨のブドウ「甲州」が世界の頂点をつかむまで』など。是枝裕和著『希林さんといっしょに。』、桜雪(仮面女子)対談集『ニッポン幸福戦略』などの編集・構成も担当。
https://note.mu/holykaoru/n/ne43d62555801

撮影:野崎 航正(09学映/写真コース)

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