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HOME  > 卒業生インタビュー  > No.56 大河原愛 [美術家・画家]

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No.56 大河原愛 [美術家・画家]

大河原 愛(おおかわら・あい)
美術家・画家
(2004年[2003年度]大学院造形研究科美術専攻日本画コース修了)

1979年、東京都生まれ。中学校の美術部でデッサンを習ったのがきっかけで、画家を目指すことを決意し、都立総合芸術高校日本画コースへ進学。学部、大学院でも日本画を専攻したが、ニューヨークへ一時移住したことをきっかけに、油彩、ミックスメディアへと転向。大学院修了後は創作活動と並行して、クロッキー会を主催し、美術講師も勤めたが、現在は画家業に専念。
2003年、銀座の画廊での初個展を皮切りに、新宿高島屋屋美術画廊、大阪高島屋ギャラリーNEXT、名古屋松坂屋本店、名古屋NODA CONTEMPORARY、米国ポートランドHellion Galleryなどで個展を多数開催。2009年よりアートフェア東京に毎年出品し、世界各国のアートフェアにも数多く参加。
人気作家(辺見庸、辻原登、鹿島田真希、桐野夏生)の装画として作品が採用された。日本アカデミー賞受賞作品映画「ミッドナイトスワン」やテレビドラマ「ルパンの娘」、NETFLIXドラマ「全裸監督」シーズン1など、数々の映画やドラマでも作品が登場。その他、ファッショングッズのコラボデザインなど幅広い分野で活躍。
日本IVR学会提供のYouTube用CMに出演し、アトリエでの創作シーンを披露している。

Webサイト:http://www.aiohkawara.com/
大河原愛出演のYouTube CM:https://youtu.be/0l21jGsqceQ

【スライド写真について】
1.本人ポートレイト
2.作品「鼓膜に残る静寂を優しさに変えるすべについて1」P20号
キャンバスに油彩・エンコースティック、2019年制作
3.作品「Reflection 5」P20号、ボード紙に油彩・アクリル、2019年制作
4.日本IVR学会提供の「子宮筋腫の新しい治療方法UAE」を紹介するYouTube用CMの撮影風景
5.新宿高島屋美術画廊での個展風景、2019年

プロフィールを見る

ひとの心の闇と痛みと、そこから滲み出る光を描いて

– ムサビを選んだ理由と大学・大学院時代の思い出は?

前衛的で革新的な教授陣の画風に惹かれてムサビを選びました。学生時代は制作に明け暮れる毎日。たくさんヌードクロッキーを描き、ムサビ日本画では好きな時にお気に入りのモデルを呼んでかなりの時間自由に描くことができたので、夢中になりました。そのおかげで今は、写真を見るだけで人物(ヌード)を描くことができます。こんなに人物クロッキーに時間が割けたのは他の大学にはないムサビの良さだったと思います。


ドローイング作品「Existence」紙にパステル・チャコール・アクリル、2004年制作

– どんなきっかけでニューヨークに行くように?

大きな転機が訪れたのは大学院生のときで、米国在住アーティストの篠原有司男氏の講演でした。篠原氏の「ぜひニューヨークに来なさい」という強い言葉に、疑心暗鬼で渡米してみるとまさに目から鱗の連続!見るもの全てに魅了され、とりわけ現代絵画に心が動かされました。日本画、油画と分かれている日本と異なり、表現の幅が広く、日本画に固執することはないのだとも感じたのです。すっかりニューヨークの虜になり、それ以来、毎年のように行くようになりました。
2008年から2年間ニューヨークに移り住み、東京と行き来しながら、創作活動を続けました。日本画の画材が手に入りにくかったので、他のものを使ってみると、意外にも描きやすいことを発見。それで、油彩やアクリルなどいろいろ試して、ミクストメディアを始めたのです。次第に米国でのネットワークも広がり、米国での個展の開催やグループ展にも参加できるようになりました。


新宿高島屋美術画廊での個展風景、2019年

– 画家として幅広いお仕事をなさっていますね

学生の頃から銀座の画廊に作品を置き、個展も開催していました。でもプロの画家という意識が芽生えたのは、2008年の新宿高島屋画廊での個展からです。高島屋では、3年ごとの個展のたびに新しい作品を40〜50点は用意しなければなりません。締め切り続きで心身ともにくじけそうになりましたが、2019年の新宿高島屋個展では作品を完売することができました。


装画した書籍

最初に装画のお話をいただいたのは、辺見庸先生の著作本でした。本当に嬉しかったのですよ、学生のころ文学が好きで、自分の絵が本の表紙になることが夢だったので。最近では、桐野夏生先生の「日没」に作品が使われています。
そのほか、映画やテレビでも作品が使われました。人物ヌードのクロッキー教室を主催していたことから映画監督より依頼をいただき、Netflixドラマ「全裸監督」(2019)の描画・デッサンシーンの演技指導や、劇中で使われたスケッチブック20ページ分の制作を担当しました。映画「ミッドナイト・スワン」で使われた肖像画は、2週間で80号の作品を描くという大変な依頼だったので、完成したときはへとへとでした。


ジェイアール名古屋タカシマヤでの3人展、右の作品は桐野夏生著書「日没」に使用された「真相の森」シリーズの作品、2021年6月

– 作品に込めた思いについて教えてください

幼少期に見た、戦争の惨状写真の中の痛々しい人物の情景が、心の傷として刻まれています。そのせいか、美大時代から人間の精神の暗部や不安定さをあぶりだすような作品の制作に没頭するようになりました。人間の体を描いていますが、バランスの取れた完璧なフォルムより、不均衡で不完全なフォルムに惹かれます。例えば顔を描くとき、最初は目、鼻、口のある完全な形で構成するのですが、気分が落ち着かなくなって、片目や口などどこかを消したりぼかしたりしてしまう。もしくは体を描くと、顔を消したくなる衝動が抑えられない。理性では制御できなくて、どうしてもそのような表現になってしまうのです。また、どういう人物かは特定できない、どこか不完全な様相の人間、しかも、美しさや可憐さを感じさせる人間賛美の人物像ではなく、弱さや痛みを抱えている、不器用でありのままの人の姿を描きたいのです。
今は様々な要因から、生きづらい世の中になっています。ニューヨークに住んでいたとき、日本にはない自由や解放感を感じることができました。ですから、生き方は多様であっていいと伝えていきたい。そして、相手に対しての寛容さと多角的な視点を持つことが、多くの偏見を解く鍵になるのではと感じています。だからこそ、人物賛美などの表現をあえて目指さず、痩せた体型の人体を描くなど、独自の表現方法を常に模索しています。


作品「Recalling places 41」35.5x25.5cm、 額 56.5x44.5cm、 紙にパステル・ミクストメディア。2021年制作

– 絵以外にお好きなことは?

哲学が特に大好きです。哲学書や様々な本を読んでは、人間の感覚、感情、思想に思いを馳せて妄想やイメージの世界を楽しんでいます。哲学や様々な思想を知って気持ちが高まると「こんな絵を描きたい」という創作欲やイメージが湧き上がって来るのです。とはいえ、体現化する人物像として、その思いを吐き出す表現を創り出すのは容易ではありません。平面上での表現はかなり難解になってしまい、絵が完成しないことも多々あり、「ほとんどの作品が未完成」と悔しさを感じながら発表しています。社会問題にも関心があり、感じたことをどう絵に反映させるか、どうやってメッセージ性を持たせるかと、日々試行錯誤の連続です。
ニューヨークが好きなのは、コンセプチュアルで独創的、前衛的なアートを好むコレクターやギャラリストが多く、多彩な表現を受け入れられる土壌があることです。日本も以前に比べると現代アートを取り巻く環境に近づいてきているので、今後が楽しみです。

– 美術・デザインの力とは?

私の絵が、見る人によって、明るくエネルギッシュとか、暗いとか、さまざまに受け止められるように、美術やデザインは視覚から入るので自分なりの解釈ができるというのが強みでしょう。人生に答えがないように、美術にも答えはありません。
言語表現は言葉の概念や定義を定めて共有することが必要なため、そのプロセスで漏れたり、無意識に忘れられたりする領域が生まれます。一方、美術はそのような領域、言語化できない感覚的な領域をそのままに見せることができるという素晴らしさがあります。


日本IVR学会提供の「子宮筋腫の新しい治療方法UAE」を紹介するYouTube用CMの撮影風景

– 最後にムサビで学ぶ学生にメッセージを

外へ出ましょう!どんどん学校の外、特に国の外に出ていって体感してほしい。また、関心がないと思うような分野の本も読んで視野を広げてください。私は海外に行き未知の世界に触れたことで、自分がやりたい表現を貫こうという自信が持てました。また、本を読むことで、行き詰まっても視点を変えることができました。
画家業は展示に追われて常に締め切り続きです。しかも、制作スケジュールの調整や展示空間のプランニングも大変で、孤独な作業です。それでも、たとえ一部の人にしか理解されなくても自分が描きたいものを描きたい。自分がやりたいことをやり続ける大切さを伝えていきたい。きっとそうすることが作家の強みや独自性を育み、数少ない理解者の心に届くと思うからです。
卒業後、制作をやめてしまった人も少なくありませんでした。どんなに孤独でも、自分に才能がないと感じても、諦めずに絵を描き続けていってほしい。そうしたら、きっと何かが開けてくるでしょうから。

− 編集後記

作品の中に描かれた女性の肉体・顔の輪郭は研ぎ澄まされ、妖艶で美しい。一部消えたりぼかされたりしているところに、秘められた物語が見え隠れしていて、ファンタジックな世界が醸し出されている。他人の苦悩に正面から向き合い、その辛さを汲み取ってキャンパスに表現しようと試みるのは、精神的にしごく摩耗されるプロセスであろう。大河原さんの深い慈しみとアートに対する正直でストイックな姿勢に感銘した。「苦しみながら描いています」とにこやかに語ってくださったのが印象的だった。

取材:大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
ライタープロフィール
名古屋市生まれ。1986年に早稲田大学政治経済学部卒業後、情報通信会社で企業広告、フィランソロピーを担当。その後、米国、パラグアイ、東京に移り住む。2006年に武蔵美通信コミュニケーショデザインコースを卒業後、再び渡米し、2008年よりスミソニアン自然歴史博物館でグラッフィックデザインを担当。2015年より東京在住。
http://www.kunikodesign.com/

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