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HOME  > 卒業生インタビュー  > No.57 井口 皓太 [映像デザイナー・クリエイティブディレクター・世界株式会社代表取締役]

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No.57 井口 皓太 [映像デザイナー・クリエイティブディレクター・世界株式会社代表取締役]

井口 皓太(いぐち・こうた)
映像デザイナー・クリエイティブディレクター・世界株式会社(CEKAI)代表取締役
(2009年[2008年度]造形学部基礎デザイン学科卒業)
1984年、神奈川県生まれ。2008年在学中に株式会社TYMOTE(ティモテ)を立ち上げ、2013年にクリエイティブアソシエーションCEKAI(世界株式会社)を設立。動的なデザインを軸に、モーショングラフィックスや実写映像監督のほか、チームビルディング型のクリエイティブディレクションを得意とする。2020年にはオリンピック・パラリンピック大会史上初となる「東京2020 動くスポーツピクトグラム」の制作を担当。開会式典ではVideo Directorとして参画し、同大会のドローン演出3Dアニメーションも制作している。

その他の主な仕事は、ミラノ万博日本館FUTURE RESTAURANT(2015年デザイン部門金賞受賞)、彦根城築城410年祭映像(2016)、ファーストリテイリング社のHQデジタル時計のデザイン、NIKEなど。
主な受賞歴は東京TDC賞(2014)、D&AD yellow pencil(2015)、NY ADC賞gold受賞(2015)など。

京都芸術大学客員教授、武蔵野美術大学非常勤講師。
趣味は最近始めた魚釣り、庭の鑑賞。

WEBサイト:https://kotaiguchi.jp/

【スライド写真について】
1.本人ポートレイト
2.伊勢丹「秋の彩祭り」2009:伊勢丹新宿店の床と壁面3mx50mのグラフィックで装飾
3.NIKELAB 『先』- FUTURE OF AIR
4.東京オリンピック・パラリンピックの「動くピクトグラム」:上から陸上競技、新体操、飛込、ゴールボール、シッティングバレーボール、車いすテニス
5. CEKAIオフィス

プロフィールを見る

映像デザインとは時間軸を伴った体験をデザインすること

− ムサビでの思い出は?

とにかく楽しかった。でも二浪していたので焦る気持ちもあり、「ものを作りにきているんだ」という意気込みが人一倍強かったのです。現役入学の学生の中では浮いていて、しかもかなり尖っていたので「殺し屋の目をしている」なんて言われたことも(笑)。同じ目つきをしていた仲間と後に会社を作ることになるのですが。
基礎デザイン学科は「デザインは分けられない」という価値観に基づいており、それまでの常識を全部リセットせよと教えられたので、白紙に近い状態からいろいろなものを吸収することができました。また、友人達と買ったプロジェクターで、グラフィックや映像を投影する遊びに熱中し、卒業制作はプロジェクションマッピングを作りました。


卒業制作-デスマスクに井口氏の将来への不安を語る両親の映像を投射したプロジェクションマッピング。

− TYMOTEとCEKAIについて教えてください

もともとTYMOTEは、学生時代に仲間と作成した作品集DVDのタイトル名でした。それから同じチームで起業することになり、そのまま社名に。「20代をできるところまで楽しくやろう」というノリで始まったものの、ゼロからのスタートだったので、初めのうちはぎりぎり食いつないでいたのです。でも徐々に実績を重ね、2009年には伊勢丹新宿店のイベントで、大規模な店内装飾を任されました。転機となったのは2015年のISSEY MIYAKE INC.のホリデープロモーション企画の「MESSAGE」。ビジュアル、映像、ウェブ、空間演出まで一括担当した大プロジェクトでした。「ブランドや企業と直接仕事をする」という設立以来の目標が実現されたのです。そして各々の進みたい方向性が見えたのを機に、結成10年目に会社を解散しました。
一方、面白い人たちが組織に縛られずに自由に活動できるネットワークが必要ではないかという思いから、2013年にCEKAIを設立しました。「いいものを、つくる」という普遍的な思想のもとに様々な分野のクリエーターが集合した総合結社です。


TYMOTE メンバーは同年代の8名、ムサビ、多摩美、桑沢デザイン研究所の学生という混合チーム


ISSEY MIYAKE INC.「MESSAGE」、 D&AD yellow pencil、NY ADC賞gold受賞(2015)

− グラフィックデザイン主体からモーショングラフィックスを手がけるようになった経緯は

「映像デザイナー」とは静止しているグラフィックやロゴの中にある様々な「ルール」を見つけ、その力学を生かして動かしてあげる仕事だと考えています。ずっと強く心に残っているのは、原研哉先生がおっしゃった「グラフィックデザインは、時間と空間を内包しているのに、なぜ動かすのか、なぜわざわざ時間を作るのか」という言葉です。自分がグラフィックを動かしたのは、時代的背景が大きかった。デザインが紙媒体からオンスクリーンへ移行し、スマホが普及し、液晶が世の中に溢れ出した状況で、グラフィックが静態から時間を伴ったものへと変容していくのは自然の流れでした。また、僕には静止画のグラフィックは動いている途中の瞬間を切り取っているように見えるので、それ自体が動いちゃった方がいいのではと思えたのです。

− ご自身でも代表作と認める、東京2020大会の動くピクトグラムについて

全73種類を自分1人で1年間かけて作りました。すでに完成している静止画ピクトグラムの前段階と後ろ段階の動きを作ったのが今回の特徴です。準備として全てのピクトグラムをCGで立体化し、同時に運動選手のリアルな動きを膨大な量のビデオで観察しました。3Dで動きを再現したものを平面に落としこみ、関係者からアドバイスを得て修正するという作業を延々と繰り返したのです。全ての競技の動くピクトグラムを繋げていくのも至難の技でした。
完成形のグラフィックデザインを最大限リスペクトしつつも、それに時間を持たせることで表現できるものとはなにか。「止まっているものを動かすこと」を実現したこのプロジェクトは、ずっと心にひっかかっていた、原先生の「なぜ動かすのか」という問いかけに対する自分なりの返答であり、卒業後10年間の仕事の集大成になった気がしています。


動くスポーツピクトグラム「バスケットボール」「BMX」の制作過程の画像

− ドバイ万博のアートディレクターとしてのお仕事は

2021年10月に開幕したドバイ万博のテーマは「Where ideas meet」。実は東京オリンピックで、若者の関心度・参加度が非常に低かったのを痛感していました。そこで、この企画では若い世代を巻き込むことに重点をおき、20代のクリエーターを総勢20名集め、膨大な数のエレメントを協働で作ってもらったのです。彼らが共同制作を通じてつながり合うことこそが「アイデアの出会い」ではないかと。担当したシーンでは、来場者の行動が可視化され、互いの多様性を認め合っていくという演出を、360度の全周型シアターで展開しました。


ドバイ万博の映像「循環(JUNKAN)」2021

− アーティストとしての活動やこれからの展望をお聞かせください

映像という「時間を作る」仕事をしているうちに、自分側から「時間」というものを発信していきたいという気持ちが高まっていきました。「時計」はまさしく時間を物質化したものなので憧れがあり、「時を刻むことを可視化した時計」というものを作りたいと考え、作品作りをしています。
オリンピックで実現したドローン映像は、画面というフレームから空中へと解き放たれ、わくわくする経験でした。映像デザインを「時間軸を伴った体験をデザインしている仕事」と捉えると、衣食住のあらゆるものが映像的体験の対象になるのでは。例えば、リゾートホテルを作ってみたいなんて夢見ているんです。


「空の時計」Installation 2021:針ではなく、螺旋状に重なる扇型の映像で時間の経過を表現する時計

− 仕事上・普段の生活で大切にしていることは?

仕事ではともかく時間をかけること。それは「人が知らないところでやれる」という最大の裏技なのです。時間をかけたからいいものができるわけじゃないのですが、やはりできあがりを見ると、熱量の差が見えてしまいます。
生活では考えなくていい余計なことは断捨離し、できるだけシンプルに。実は数年前より携帯電話を持たなくなりました。手放してから自分の思考に没頭できて、時間の使い方も変わってきました。SNSはしていないし、機器の新しい機能にも疎いので、驚かれています(笑)。

− 最後にムサビで学ぶ学生にメッセージを

先生から教わるというより、先生たちのリアリティを自分たちのリアルさで見据えることが重要です。その世代だから感じる、自分だから感じるリアリティを素直に大事にして欲しい。僕は卒業後の進路で普通に就職先を選ぶのに違和感を覚え、仲間たちとやっていくことの方がリアルなのじゃないかと感じ、それを選択しました。周囲からの同調圧力を突破することは、自分の視点でリアリティを見ることなのです。

− 編集後記

カラフルで楽しく懐かしいものがあちこちに散在するおもちゃ箱のようなオフィススペースで、人々が思い思いに仕事する光景が印象的だった。CEKAIを「スイミー」のように、個々が自由に出入りでき、バラバラになったり、結束したりする有機体の会社にデザインしたいとのこと。ぶれない探究心と変化への柔軟さ、そしてクリエーターへの慈愛に満ちたお人柄が、おしゃれで居心地の良い空間を作り出しているのだなと感じた。

取材:大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
ライタープロフィール
名古屋市生まれ。1986年に早稲田大学政治経済学部卒業後、情報通信会社で企業広告、フィランソロピーを担当。その後、米国、パラグアイ、東京に移り住む。2006年に武蔵美通信コミュニケーショデザインコースを卒業後、再び渡米し、2008年よりスミソニアン自然歴史博物館でグラッフィックデザインを担当。2015年より東京在住。
http://www.kunikodesign.com/

撮影:野崎航正(09学映/フォトグラファー)

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