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HOME  > 卒業生インタビュー  > No.58 坂口 佳奈 [画家・木祖村地域おこし協力隊隊員]

[msb! caravan]

No.58 坂口 佳奈 [画家・木祖村地域おこし協力隊隊員]

坂口 佳奈(さかぐち・かな)
画家・木祖村地域おこし協力隊隊員
(木祖村役場産業振興課所属、現在木祖村観光協会に出向中)
(2019 年[2018年度]大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了)
1991年、熊本県生まれ。江戸切子のインストラクターの仕事に就いてほどなく、covid-19の感染が拡大。在宅勤務要請が急速化する中、心機一転して2020年夏に長野県木祖村へ移住。同年12月に木祖村地域おこし協力隊隊員として採用され、現在は観光協会で働きながら制作活動に励んでいる。趣味は散歩、描画、文章(詩など)を書くこと。インドア派だったが、今ではすっかりアウトドア好き。

2017年「克服展」サンクトペテルブルク/ロシア
2019年「キャンプができたらいいな」Gallery Parc/京都
2019年「KISO PAIMTINGS vol.3 夜明けの家」大銭や/やぶはら 長野
2020年「物語のものがたり」あまらぶアートラボ/兵庫
2020年「Gallery PARC m@p」Gallery PARC/京都
2020年「KISO PAINTINGS vol.4村のオハナシ」なすや/やぶはら 長野

WEBサイト:https://sakaniki.jimdofree.com/

【スライド写真について】
1.本人ポートレイト
2.卒業制作作品「Flat」油彩、2017年
3.「忘れないように、ここに書いておくけど」 木曽ペイティングス出展作品、坂口佳奈・二木詩織のユニットとして発表、2020年
4.「あなたのための山」木曽ペイティングス出展作品、ベンガラを使用、2021年
5. 坂口佳奈・二木詩織のユニットで企画した「バラバラレターものがたりワークショップ」のちらし、2021年

プロフィールを見る

アーティストと地域の新しい可能性を探って

− ムサビでの思い出は?

キャンパス周辺の素朴な情景が気に入っていました。ムサビは実技以外の教養科目も豊富で、哲学、心理学、宇宙科学など印象深い授業がありました。そこでの学びから得たインスピレーションは、現在の制作にも影響を与えています。先生方は学生をとても大切にしてくださり、悩んだときに話を聞いてもらう「居場所」のような存在でした。また、深く話し合える友人たちとも出会うことができ、今もユニットとして一緒に作品作りをしています。


自然豊かな木祖村の光景

− なぜ木祖村に移住したのですか?

きっかけは木曽ペインティングス*とコロナです。大学院を修了して、大学で教務補助員を務めた後、江戸切子を修行しながら教えるインストラクターの仕事をしていました。ところが、その頃新型コロナウィルスが勃発。感染不安が高まり、在宅勤務が求められる状況へと世の中が一変しました。当時、仕事や制作の方向性について悩んでいたので、より一層気持ちが不安定になり、東京での暮らしに次第に疲れてしまい……。そこで思い切って、仕事を辞め都会を離れることにしたのです。
木祖村は2年前に木曽ペインティングスに参加したこともあり、何度か訪れた場所でした。でも、その時点では「とりあえず行ってみよう」くらいの気持ちで、2000年の7月に住まいを残したまま東京を後にしました。
村では部屋を借り、車を購入し、最初の数ヶ月は地域一帯を一人で探索していました。仕事はせず、貯金を切り崩しての生活でした。そしてタイミングよく、地域おこし協力隊隊員の募集があり、応募して採用が決定。もともと熊本出身で移り住むことに抵抗がなかったので移住を決断できたのかもしれません。


*木曽ペインティングス(KISO PAINTINGS)とは:
2017年より信州木曽谷で毎年開催される芸術祭。発起人は岩熊力也氏。「宿場町と旅人とアートの至福な関係」を旗印に、地域課題と向き合いながら持続可能なアートのあり方を模索する祭典で、地域の歴史や景観を守りながら、地域の資源や人材を活かしたプロジェクトを推進している。
https://www.kisopaintings.com/

 


「忘れないように、ここに書いておくけど」 木曽ペイティングス出展作品、 坂口佳奈・二木詩織のユニットとして発表(2020年)


第4回木曽ペインティングスパンフレット(2020年)

− 地域おこし協力隊でどんなお仕事をされていますか?

「村の観光資源を使って人を呼び込むお手伝い」がミッションです。観光ガイドや広報デザインの作成、新聞コラム記事の執筆やSNSの発信など、観光推進業務一般を担当しています。1年目はまず村を知ることがメインの仕事で、観光資源の視察に多くの時間を費やしました。中山道藪原宿や、鳥居峠、水木沢天然林など多くの観光スポットがあります。募集される協力隊のジャンルは様々で、協力隊員には、伝統工芸品を継承する職人仕事をしている人や、村のイベントを企画するアクティビティーオーガナイザーをしている人がいます。今年の募集は農業従事者です。周囲の町村を合わせた木曽郡全体の隊員数は27名ほど。別の村ではアーティスト活動と業務を両立させている方もいて、陶芸・粘土での制作活動やワークショップを通じて村おこしに取り組んでいらっしゃいます。


村のガイドをする坂口さん


坂口佳奈・二木詩織のユニットで企画した木曽ペインティングスワークショップ(2021年)

− 木祖村での制作活動は?

絵のモチーフもアートへの取り組み方も変わってきました。最近は植物や人物を題材に描いています。水彩が多いのですが、他の絵の具の研究もしてみたいです。
協力隊に応募したきっかけの1つは「アーティストとして活動しながら働き方を模索すること」。制作時間を取るため、ちょっとした隙間時間でも大切にするようになりました。以前は時間にルーズな「ムサビ時間」の人だったのですけれど(笑)。今は時間の使い方が上手い人が、仕事と芸術活動を両立できると思っています。
また、創作行為以外のことにも関心を持つようになりました。例えば、東京では全く抵抗なかった油絵具を洗う時の水の汚染や、生み出されるゴミの量などが気になるようになり、片付け方を意識するようになりました。また、こちらでは画材も簡単に買えないので、無駄なく循環できるよう使えたらいいなと思います。


作品『水辺』水彩(2021年)

− 木祖村に来て気づいたことは?

ここに来て違う考え方の人にたくさん出会い、モノの見方も人間関係も大きく変わりましたね。東京では美術に携わる仲間に囲まれていたせいか、自分達が多数派だというイメージがありましたが、地方に住んでみて初めて、絵を描いて生活するという人生は明らかに少数派だということに気づかされました。
アート関連の仕事が多種多様にあり働く機会も多い都市部に比べて、地方は少ないのが現状です。一方、地方は生活費が安いというメリットがあるほか、仕事を自分で作っていける可能性もあるのです。例えば、観光協会ではもともと専門としていなかったデザインの仕事を任されており、それが自分の新しいスキルアップにつながっています。地方で生活する上でのチャレンジや魅力に向き合い、経験に結びつけていくことが課題だと思っています。

− 今後の展望は?

文化のアーカイブに関心があり、学芸員の資格を取るためムサビの通信で学び直す予定です。将来的には、村の資料館の活用についても何か提案していきたい。そうした地元文化の記録・保存に携わるというのは、地方に住むアーティストの一つの生き方ではないかと。創作活動と並行して、文化を守っていく側としても働けたらいいなと思うのです。
また、時間はかかるでしょうが、村の人たちがフラットな気持ちでアートに触れ合えるような場を作っていきたい。そのためにも今はまず、アーティストとして制作活動をしながら、自分なりにどのように人々と関わり、村に根付いていけるかを考える時期だと思っています。


木祖村の郷土資料館

− 最後にムサビで学ぶ学生にメッセージを

違うところに行きたいという気持ちがちょっとでも芽生えたら、後先考えずに飛び込んでみてください。私自身、出身地でも大学所在地でもない場所に来てしまいましたが、意外と巡り巡って夢を叶える足掛かりとなっています。遠回りや寄り道をしながら自分の進む道を選んでいってもいいのではないかと。

− 編集後記

「コロナがなかったら今も東京で暮らしていたかもしれません」—世界中の人々の暮らしを狂わせたパンデミックだが、それが思わぬ「ライフチェンジのきっかけ」になった人は少なくない。坂口さんのようにポジティブな経験であることを願いたい。壮大な自然と温かい人々に囲まれた環境で生み出される作品は、木祖村の魅力とエネルギーがいっぱい詰まった素敵な作品であるに違いないだろう。

取材:大橋デイビッドソン邦子(05通デコミ/グラフィックデザイナー)
ライタープロフィール
名古屋市生まれ。1986年に早稲田大学政治経済学部卒業後、情報通信会社で企業広告、フィランソロピーを担当。その後、米国、パラグアイ、東京に移り住む。2006年に武蔵美通信コミュニケーショデザインコースを卒業後、再び渡米し、2008年よりスミソニアン自然歴史博物館でグラッフィックデザインを担当。2015年より東京在住。
http://www.kunikodesign.com/

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