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No.59 宇野純一 [テレビ美術デザイナー]

宇野純一(うの・じゅんいち)

テレビ美術デザイナー
(1993年[1992年度]武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科卒業)

1967年、東京都生まれ。育英工業高等専門学校を卒業後、武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科に入学。1993年4月、株式会社テレビ東京アートに入社。これまでに手がけた番組は、「おはスタ」「TVコロンブス」「MUSIX!」「ハローモーニング」「Ya-Ya-yah」「夏祭りにっぽんの歌」「日本作詩大賞」など多数。

【スライド写真について】
1 ポートレート
2 「おはスタ」新セットイメージスケッチ案(2016年制作)
3 「おはスタ」新セット(2016年)
4 「MUSIX!」ステージセット(2000年)
5 「ハローモーニング」MCセット(2000年)

プロフィールを見る

人との出会いや縁を大事にすれば、人生は充実する。

─ 美大に入ろうと思ったきっかけは?

生まれは新宿なのですが、小学1年生のときに杉並区へ引っ越したら、近所にムサビの日本画を卒業された狩野紘信先生(1963年度本科日本画科卒)がやっている絵画教室があったんです。そこで油絵を習いはじめました。

とにかく、この先生の人柄がとてもよくてね。油絵の展覧会に出すにはそぐわない宇宙っぽい絵を描いても、「面白いからどんどん描きなさい」と。常に僕の自由を尊重してくれたし、いろんな素材で遊ばせてくれた。それで、大学の第一希望は狩野先生を輩出したムサビにしようと思いました。

─ 油絵を習っていたのに、空間演出デザイン学科に入学されたのはなぜですか?

実は中学卒業後、育英工業高等専門学校(現サレジオ工業高等専門学校)、いわゆる「高専」に入ったんです。グラフィックデザインを専門的に学びたくて入学したのですが、思った以上にがっつり印刷・工業系で。

それで、学校の外に興味が向き、舞台や映画に足を運んでいると、これがすごく面白かった。舞台だと、パルコ劇場、日生劇場とか新宿コマ劇場など、商業演劇で話題になったものはかなり観たし、映画はいまは亡き新宿の名画座に朝から夜まで籠って、名作をたくさん観ました。

高専の図書室にあった舞台装置の本もむさぼるように読んでね。物語の器(情景、シーン)をつくることに、心惹かれたというか……。次第にこの世界に携わりたいと思うようになり、狩野先生に進路相談をして、ムサビの空デを目指すことにしたわけです。

─ ムサビで印象に残った先生は?

お世話になった先生は、小石新八先生です。いつも話を親身に聞いてくれて、僕のことを陰ながら導いてくれました。

それから高田一郎先生。高田ゼミに入ったのですが、高田先生は“ザ・芸術家”だから、何も教えてくれないんですよ(笑)。絵画教室の狩野先生と同じく、「僕の姿を見て覚えなさい」というタイプ。ゼミの授業でも先生の個展用の模型をつくって、六本木で鰻を奢っていただいた記憶しかありません。ただ、先生の生き方というか、立ち振る舞いから、「ものづくりに携わる人」の姿を学ばせていただきました。

─ サークル活動や芸祭などで思い出はありますか?

競技ダンスのサークルに入っていました。友人から強引に誘われて、1年生の夏休み前に入部したんです。ダンスのダの字もわからないのに、「夏合宿最後には7種目踊ってもらうからね」と、練習が超ハードだった。でも、必死に覚えて、合宿の終わりにはどうにか7種目踊れるようになり、それがなんだか面白かったんです。夢中になって、結局4年間続けました。

ダンス部の仲間もできたし、他大学の“ダンス命、留年上等”みたいな人たちも仲良くなれたし、先輩にも可愛がってもらった。僕の大きな財産ですね。


芸術祭で踊る宇野さん。4年間、同じ女性とペアを組んだ。「変な言い方だけど、組んだからにはしっかり添い遂げる。そうでないと相手に失礼に当たると思うんです」。

─ 卒業後は、テレビ美術・照明・CGをトータルでプロデュースするテレビ東京グループ会社の美術専門会社「株式会社テレビ東京アート」に入社しました。

最初の入社3年目ぐらいまでは辛いこともあったけど、そのときに非常にお世話になった方がいるんです。田辺尚志さんという、ちょんまげ姿の大先輩。

1年目だったか、「徳光和夫のTVコロンブス」という情報番組がリニューアルすることになり、新しいセットをやってみるかと言われたんですね。「お前が間に合わなかったら、俺のを出すから、やってみろ」と。わからないなりに一生懸命に平面図を仕上げ、次はそれをセット模型にしてみたら、「これはカメラが撮りにくいよね」などと指摘され、また死に物狂いでにやり直して。その一連の試行錯誤にずっと付き合ってくれたのが、田辺さんでした。

それで仕事の流れが把握でき、ひとつ突破できたかなと思えたんです。もちろん、自分の美術セットがオンエアに乗るのは格別の嬉しさだし、毎回の生放送に立ち会うのも楽しかった。思えば田辺さんも自分の生き様、スタイルを後陣に伝承していく人でした。最近亡くなられたのが、本当にとても悲しいです。


「おはスタ」の道具帳(※美術セットの装置図面のこと)

─ つくったセットは、完成後はどのように?

常設の場合(ニュースセット等)は建てっぱなしのものもありますが、通常のレギュラー番組の場合は収録前に毎回スタジオにセットを建て込みます。だから大道具さんが飾りやすく、バラしやすいものがよい。美術倉庫に収納したり、トラックに乗せて別の場所に持っていったりすることも考えると、道具の寸法も大事です。しかもすべて予算内でやりくりしないといけない。でも、制限があるからこそ、楽しく考えられるというのもありますね。


「夏祭りにっぽんの歌」(2009年)

─ 1993年に入社し、来年で丸30年。振り返って、テレビの成長、または衰退など、思うところはありますか。

テレビを取り巻く状況は一変しました。以前のテレビは“メディアの王様”でしたが、いまはYouTubeを筆頭にいろんな媒体があって、競争相手が増えた。「テレビ離れ」もよく言われるところです。

でも、僕はそれほど悲観していない。技術も制作も含めて、テレビという長い歴史における蓄積があるからこそ、他の媒体もテレビの魅力やよい側面を真似できるというか。テレビの地上波がいろんなメディアに侵食されているというのなら、逆にこちらが新しいメディアをつくったり、仕掛けたりすればいいと思うんです。「筍の皮を剥くように仕事がなくなっていく」と嘆くのではなく、こちらから攻めていけばいいんだと。

僕自身、テレビ以外の仕事が増えています。例えば、イベントや競技大会のグラフィックデザインや、会場も含めたトータルデザインの仕事もやらせてもらっている。それこそ高専で学んだグラフィックのテイストも役立っています。以前のような殿様商売ではなくなったいま、仕事は自ら獲得していくものに変わりつつあると思います。


「柔道グランドスラム大阪2018」(2018年)

─ イベントや競技大会に関わる楽しさは?

いまは日本で行われる国際的な柔道大会である「柔道グランドスラム」や、さいたまアリーナで開催される「フィギュアスケートJapan Open」の会場を飾るグラフィックデザイン関係と会場のレイアウトデザインに関わらせて頂いていますが、主催者の考えと僕のデザインセンスがうまく融合してひとつの形になっていくのが、テレビとは違う面白さがあります。

セットをつくること自体はテレビと変わらないけれど、会場には観客がいるから、よりリアルに感じますね。それに、大会って、その1回きりで終わる。言わば、僕の仕事は「夢の跡」というか、無常なんだけど、なくなっちゃう。残らないから逆にいいのかなと。残らない美学みたいな、その儚さが潔くて、僕は嫌いじゃないんです。

とにかく、これからテレビ業界に入りたいと思う人には、「テレビは決してなくならないし、いろんなチャンスがありますよ」と伝えたい。逆にいまがチャンス。先駆者というか、最初にやった人が勝ちなので、そういうものをひとつでも多くやれるなら、いまも楽しい業界だと思います。

─ ご自身の今後の展望は?

体力が続くかぎり、この仕事をやり続けたい。何か違うことがあれば、トライしていきたい。それなりの歳なので、健康管理もやりつつですが(笑)。

─ 最後にムサビにいる学生にアドバイスをお願いします。

辛いことも嫌なこともいっぱいあると思うけれど、すべては将来の糧になると思って、腐らず、精一杯やっていきましょう。課題も、遊びも、家族のことも、すべてが経験です。勉強しろとは言いません。だって僕は勉強していないから(笑)。習うのではなく、現場に行って慣れろということかな。いまは手取り足取り教えてくれることを期待する人が多いですが、そんな手取り足取りは所詮まがいもの。やはり人と接し、そこから察することが大事だと思います。

取材:堀 香織(92学油/フリーランスライター兼編集者)
ライタープロフィール
鎌倉市在住のライター/編集者。雑誌『SWITCH』の編集者を経て、フリーに。『Forbes JAPAN』ほか、各媒体でインタビューを中心に執筆中。単行本のブックライティングに、是枝裕和著『映画を撮りながら考えたこと』、三澤茂計・三澤彩奈著『日本のワインで奇跡を起こす 山梨のブドウ「甲州」が世界の頂点をつかむまで』など。是枝裕和著『希林さんといっしょに。』、桜雪(仮面女子)対談集『ニッポン幸福戦略』などの編集・構成も担当。
https://note.mu/holykaoru/n/ne43d62555801

撮影:野崎 航正(09学映/写真コース)

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