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HOME  > 卒業生インタビュー  > No.61 風間 天心[アーティスト・僧侶・美術教員]

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No.61 風間 天心[アーティスト・僧侶・美術教員]

風間 天心(かざま・てんしん)
アーティスト・僧侶・美術教員
(2008年[2007年度]大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了)

1979年、北海道東川町生まれ。隣町である旭川市の高校を卒業後、武蔵野美術大学油絵科に入学。大学院を修了後、大本山永平寺に安居。武蔵野美術大学パリ賞によりパリ市「Cité Internationale des Arts」に滞在。宗教と芸術の相互作用を求め、国内外で多様な活動を続けている。

主な受賞歴として、2015年「Tokyo Midtown Award 2015」優秀賞。2016年「第5回 札幌500m美術館賞」グランプリ。同年「JR TOWER ARTBOX 2016」グランプリ。2019年「第22回 岡本太郎現代芸術賞」岡本敏子賞。

風間天心 Webサイト:http://www.tengshing-k.com/
大仏造立プロジェクト Webサイト:http://bigbuddha.jp/

【スライド写真について】
1.ポートレート(写真:小牧寿里)
2.ポートレート
3.「大仏造立プロジェクト」で制作された「ミニ大仏」の一部。ミニ大仏が集まることで大きな大仏ができるプロジェクト。
4.「Surfaith」(2018)

プロフィールを見る

アートの根本にある「心」と向き合いながら築いた、自分の生業

─ ムサビ入学のきっかけを教えてください。

旭川でサッカーに専念していた高校時代から一転、進学を考えた時に美術の先生が美大を薦めてくれて、札幌にある武蔵野美術学院という予備校に通いはじめました。結果的に4年間浪人しましたが予備校の仲間とは今もつながっています。大学在学中も違う美大に行った仲間たちとグループ展や企画展を定期的にやっていました。地方組の強みですよね。

─ ムサビでの作品作りのことを教えてください。

作品作りって、何かしらに影響を受けていますよね。当たり前のことかもしれませんが、100%オリジナルのものなんてない。当時“自分の絵とは何か”と考えていた時に、純粋に自分の中だけで生まれてくるものじゃないということへの問いを持ちはじめて。それ以降は何を描いていいのかわからなくなってしまい、3年生の頃には絵で表現することをやめてしまいました。
また、僕からすると日本のアートの世界は閉鎖的な感じがしていたんです。2006年に入選した岡本太郎現代芸術賞も大学の外側に目を広げるきっかけのひとつですが、デザインやエンターテイメントなど違う分野も勉強すべきであり、関わっていった方が面白いものができるんじゃないかなと思っていたんです。

いったい自分は何をやりたいのかと思考するうちに、より広い場所でいろんな人に作品を見てもらうことができるといいなと思ったんです。それ以降は大きなスペースを使いインスタレーションや現代美術に表現が変わっていきました。
当時はなんとなくですが、その方が自分には合っているという感覚でした。


『pause.(2004)』ムサビ(鷹の台キャンパス)10号館の廊下で風間さんがはじめて作ったインスタレーション作品。「講師として来ていた評論家 鷹見明彦氏の目に止まったことで自信を持てました」

─ 大学院修了後には曹洞宗大本山永平寺(福井県)で1年間修行をされていますが、どのような背景があったのでしょうか。

大学院を出た後、修行に入ることは、ずっと考えていたことでした。もともと実家が曹洞宗のお寺で、その本山が永平寺でした。どんなものを作るにしても表現の根本には心があると思い、次第に精神的なものへと関心が向いていて。そして、閉鎖的に感じていたアートの世界からだけではなく、違う立ち位置からも俯瞰してみたい、アーティストとして何が見えるのかということを考え僧侶の世界に入ることにしました。ただ、表現すること自体をやめるかもしれないという覚悟も同時に持っていました。

─ 結果的には1年間の修行を終えた後、アーティストとして禅宗の食事作法をみせるパフォーマンス『日常茶飯事』を行なわれていますね。

永平寺での修行で僕が感銘を受けたのが、「食べる・寝る・坐る」といった生活様式すべてにある“型”(=作法)です。在学中、僕は人に見てもらうことを前提に作品を作っていたのに、700年もの間、一般の目に触れることなく伝わってきた型が、見る人によってはすごく美しいものに仕上がっているのはなぜかと考えるようになって。
在学中に絵が描けなくなった時に感じた問いが解消されないなかで、視覚的なものだけではなく、経験や考え方など、作品の背景にあるものが他者との差別化を生むのではないかと考えました。だから、出来上がるものは他の何かと似ていたとしても、それは似て非なるものになるんじゃないかなと思うようになったんです。

当然、このパフォーマンスがアートなのかという不安もありました。でも裏を返すと、誰もやってない。アーティストとしても、僧侶としても、僕がやる意味があるんじゃないかなと感じました。


『日常茶飯事』インスタレーションより

─ 現在は北海道に拠点を持ちながら、場所や形にとらわれずさまざまな活動をされているように感じました。

2011年「武蔵野美術大学パリ賞」の受賞をきっかけに渡仏し1年間滞在しましたが、東京から離れたことでできなくなった仕事がありました。それからは場所に依存せず、僕がどこにいても依頼してもらえる仕事を作っていかなければと、北海道に拠点をかまえたのが10年ほど前。現在も活動は多岐にわたっていて、アーティストや僧侶といった個人の活動だけでなく、アートコレクティブ「German Suplex Airlines(ジャーマンスープレックス・エアライン)」に所属しています。


コロナ禍によって、人々の中に充満した不安や怒りを浄化し、前を向くためのシンボルを造立するため、German Suplex Airlinesで企画した「コロナ大仏造立プロジェクト」は、クラウドファンディングで約380万円もの支援が集まった。

─ さまざまな生業を築くなかで、現在はどのような活動に主軸を置いているのでしょうか。

実はもうひとつ、市立・私立の中・高校合わせて4校で美術の先生をやっていて、週で割く時間でいうと割合が多いです。

いかに日本でアートを生業にすることがむずかしいことか、僕自身もよくわかっていますが、その原因を突き詰めた時に日本人がアートとの関わり方を知らないということがあり、その根本は教育にあると感じています。
アート=絵の巧い人のもの、きれいで美しく癒しを与えるものといった偏った教え方が多い。でも、違うんです。ゆがんだ性格だったり、トラウマを持っていたり、生まれが悪かったり。社会ではマイノリティとされてしまうかもしれない人でも、その人なりの価値を構築できるのがアートの力だと思っています

そういった可能性を中・高校生の時期に教えられていないから、興味のない人にとってアートは自分とは関係ないことだって思ってしまう。本来はどんな人にとってもその人なりの価値を構築できるものだと考えています。

─ 今後の展望を教えてください。

この先お寺がやるべきことのひとつに、若者の支援があると思っています。例えば、何かをはじめたいという子や行き場を失ってはいるけれど、エネルギーはありあまっているような子がきっかけを作れるといったような。その中にもちろんアーティストも含まれるんですけれどね。いろんな若者たちの居場所になるようなお寺を作りたいです。

教育に関われば関わるほど、今の学校の在り方ではこぼれ落ちてしまう子も中にはいるなと感じていて。学校は学校としてそれでいいんですけれど、なんせ僕が相当ひねくれているから(笑)その仕組みから外れてしまうことはよくわかるんですよね。

そういう子たちにこちらから目を向けてあげないと社会の仕組み的にはどんどん見えづらいところに隠れてしまう。今あるような公的な場所にそういう子はなかなか出てこないし、そもそもコミュニケーションが得意じゃない場合もあるので。だから、自らそういう場を提供していく必要性を感じています。

─ 最後に学生へのメッセージをお願いします。

僕が今やっているアーティストという職業は、仕事にするにはすごく難しい分野。だから正直、勧められるほどの責任は持てないです。でも、やりがいがあるかどうかでいったら、他の何よりもやりがいがあるから続けているんです。学生たちには、アートの持っている懐の深さや面白さを知ってほしいなと思います。

そもそもアートを好きになり大学まで進むっていう人なんて限られているのに、卒業後に同じ世界で活動し続けている人は少ない。でも、アートとはコレクターとして関わるなり、学芸員だったり、企業に入って扱ったりすることももちろんできます。作家だけがゴールじゃない。

評価だって大学の中がすべての世界じゃないから、評価だけを気にしすぎずに。僕は学生たちには、そこに気づき、ある種のクレバーさを持って欲しいなと思います。学生時代は特に、大学を拠点にして、どんどんその外に出てった方がいいなと思いますね。

取材:細野由季恵(10学視/エディター・ディレクター)
ライタープロフィール
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。
好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

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