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[msb! caravan]

No.80 三谷 薫子 [サイクラーズ株式会社 経営企画部 デザイナー]

三谷 薫子(みたに・かおるこ)
サイクラーズ株式会社 経営企画部 デザイナー
(2022年[2021年度]大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了)

サイクラーズ株式会社 経営企画部に所属。リユース事業や産業廃棄物の中間処理などの資源循環に関する事業を基盤とする同社初の新卒デザイナーを務める。現在はムサビ出身の3名からなるチームとともに廃棄物をリメイク・アップサイクルした家具や雑貨を制作するブランド「enloop®」(エンループ)を立ち上げる。企画・デザインから制作までを一貫して手がける。

【スライドキャプション】
1.入社後の作品を持つ本人ポートレート
2.アクリル素材を再利用した作品『(mini家具)』
3.木材・アクリル・椅子の張り生地を再利用した作品『(sustaina bouquet)』
4.2026年春にオープンしたインテリアセレクトショップ「Pearl[re]Pearl(パール レ パール)」のリメイク家具
5.アクリル素材に独自のペイントを施し、既存の時計パーツを再構成して生まれた一点物の時計

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向き合うほどに、素材は姿を変える

─ ムサビに入学したきっかけと、彫刻学科を選んだ理由を教えてください。

当時はいろんな大学を見学していましたが、彫刻学科はアットホームで教授との距離が近く、気軽に相談しやすい空気を感じたんです。また、2年生までにさまざまな素材に触れる実習があり、学びたい素材を決めてから専念できる環境が整っているなと思っていました。彫刻学科に決めたのは予備校に入ってからで、いろんなデザインや表現を試す中、立体をつくることに興味が湧きました。

─ 学生時代に夢中になったことを教えてください。
制作です。他にも考えてみましたが、やはり制作に夢中でした。特に印象に残っているのは、2年生の石彫。石という素材に対しては硬く冷たい印象を持っていました。それにはじめは彫ることさえままならず、手が痛くなるばかりでうまくいかなかったんです。
ただコツを掴んでいくにつれて、コンコンというリズムのなかで、どんどん石が彫れていく感覚がとても心地よくて。さらに磨くにつれ、最初の印象が一転して温かみのある繊細な作品になります。そんな素材に惹かれ、進級後も石彫を選ぼうと決めました。

卒業制作の時期は忙しかったのですが、仲のいい学年だったので、「みんなで早く来て制作しよう」といってラジオ体操からはじめたり(笑)。そんな日々でした。


シリーズタイトル『感覚的に石を彫る。(2020)』より。大学院まで石彫を続けた三谷さん。「時間をかければかけるほど、素材の本質や魅力があります。向き合い続けることで見えてくるものがあるという感覚です」

─ 大学院修了後は、現在の会社にデザイナーとして入社されています。会社にとっても新卒の美大生採用は初めての試みだったそうですね。

ムサビのキャリアセンターの求人に「リメイク家具」という言葉を見つけて、気になったのがサイクラーズ株式会社との出会いです。会社説明会で工場見学をした際に、今まで目にしてこなかった産業廃棄物の行き先を知りました。そうしたものの流れをもっと知りたい、関わっていきたいと思ったのがきっかけです。

入社当時は具体的なことはほとんど決まっておらず、廃棄予定家具のリメイクをブランド化したいという会社の方針だけがある状態でした。1年目は試しに制作をしてみたり、デザイン業務をしたりと、模索していた時期です。実はこの頃に、溶接の資格も取得したんです(笑)。グループ会社の120周年を機に、鉄スクラップを使ったモニュメントの制作を任せていただいて、今も3か所のオフィスの入り口に飾られています。


鉄スクラップを使ったモニュメント『サイクラーズグループ創業120周年記念モニュメント(2022)』

─ 現在は同じくムサビの卒業生であるメンバーとリメイク・アップサイクル事業の「enloop®」を立ち上げられています。どのような経緯がありましたか?

ムサビの新卒として島田ちひろさんが入社してくれたおかげで、デザイナー2人体制となり、話が進んでいき、当初の目標であったリメイク家具のブランド「enloop®」を立ち上げました。

このブランド名が決まる前から制作を始めていたのですが、ムサビのインターンが私たちのはじめてのイベントでした。市ヶ谷キャンパスで私たちと、インターン生の作品を展示させていただいたのですが、後に入社することになる東條鈴菜さんもそこに参加してくれていました。
その後もイベントや制作を重ね、2024年2月に「enloop®」の商標登録を経て、ブランドを打ち出し現在に至ります。


ムサビ卒の島田ちひろさん(22学工)※左、東條鈴菜さん(23学基)※中央と。

─ 携わったプロジェクトで、印象的なエピソードがあれば教えてください。

閉館する映画館のプロジェクト「さよなら 丸の内TOEI」です。東映株式会社様による最後の直営館である「丸の内TOEI」の閉館に伴い、廃棄予定になっていた座席シートやどん帳、大型スクリーンなどの素材を活用し、家具や小物にアップサイクルするためのデザインや制作をチームで担当。

制作したアイテムはクラウドファンディングの返礼品として支援者の方々にお届けしました。

私も映画が好きなので、ファンの方に届けるために背景を理解した上で、どう敬意を持ってリメイクするか、またどう思い出として形に残るようにするかを心がけました。


スクリーンを活用した小物入れ

─ 彫刻学科での学びは、どのように活かされていますか。

廃棄となる家具は、発生源や種類が多岐にわたり、同一のものが入ってくることはありません。毎回、素材を一つ一つ見極めて、どうリメイクするかを考えていくんです。素材の特性を理解して、どう活かせるかという考え方は、やっぱり彫刻で培ったものが生きているかなと思っています。

2年生までに鉄・石・プラスチック・テラコッタなど、いろんなものに触れていたことも、今の仕事に役立っています。


コロナ禍で活躍したアクリルのパーテーションは、廃棄物として社会課題になりました。グループ会社が回収し、enloop®が時計や小物としてリメイクしています。

─ 現在挑戦していることを教えてください。

扱いに慣れてきた素材もある一方で、まだまだ研究が必要な素材もあって。企業様からの相談内容は多岐にわたるので、どんなものにもお応えできるようにアイデアや事例のストックを増やしていきたいです。

現在は、この春開設したインテリアセレクトショップ「Pearl[re]Pearl」のポップアップイベントに向けて、ホテルから回収したアンティークの椅子を、一般家庭にも置けるようリメイクしているところです。研磨・塗装など自分たちの手も動かしながら進めています。イベントではデザイナーそれぞれのエリアを設けて、個人作品として発表する予定もあるので楽しみですね。


ホテルにあった椅子のリメイクは、老舗ホテルの家具修繕を手がける会社の協力のもと制作。座面の張替えは外部の専門職人が担い、デザインとその他の研磨・塗装などの作業をチームが担当する

─ 今後の展望を教えてください。

仕事を通じて、自分自身の生活の中でも環境への配慮を意識するようになり、手に取るものも変わってきました。今後は、どんな人でも選びやすい循環型のデザインを実現したいなと思っているんです。
今はサステナブルな商品というと、少し意識の高い選択肢の一つとして捉えられることもあります。ですが、それをどんな人でも自然と選びたくなるような製品やデザインが作れたらいいなと。入社前はここまで大きいことをやらせていただけると思っていなかったからこそ、今の充実感はひとしおです。


「デザインの力で新品よりもリメイクのものを選びたくなるように見せるのが今の課題です」(三谷さん)

─ 学生へのメッセージをお願いします。

私のように学生の頃とは違う分野で仕事に挑戦するという方も多いと思います。ただ一見違うように見えても、ムサビで学んできたことは心の中に残っていて、ふとした時に生きてきます。自信を持って、みなさんのやりたいことに向き合ってほしいなと思います。

取材:細野由季恵(10学視/エディター・ディレクター)
ライタープロフィール
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。
好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

撮影:いしかわ みちこ(10院デ写)

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